◆”第61回カンヌ国際映画祭”長編コンペ部門の受賞作と受賞者コメントをかいつまんでお伝えしよう!

●グランプリ『ゴモラ』監督:マッテオ・ガローネ
ロベルト・サヴィアーナの小説を映画化。”カモラ”という名で呼ばれるイタリアン・マフィアが”金と血”による掟で、社会の奥底に根を下ろした様をドキュメンタリータッチの5つのエピソードで描いた力作。受賞会見でマッテオ・ガローネ監督は、原作者に対して感謝した後、コンペに参加したイタリア映画の2本がともに受賞したことを喜んだ。

●監督賞『スリー・モンキーズ』監督・脚本:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
カンヌの常連で、03年には『ウザク』でグランプリ、06年には国際批評家連盟賞を受賞したトルコの実力派監督の野心作! 今回は、ワイドショーが喜んで俎上にのせそうな、ある”3人家族”が織りなす物語を圧倒的な演出力と独特の映像美で魅せている。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は「僕の国トルコにとっても、とても大事な賞となって嬉しい」とコメント。

●男優賞 ベニチオ・デル・トロ『チェ』
『セックスと嘘とビデオテープ』でカンヌを制したスティーヴン・ソダーバーグ監督が7年の歳月をかけて準備し、キューバ革命の英雄チェ・ゲバラの半生を2部構成で描いた4時間28分の大作。本作のプロデューサーも兼ねて主演したベニチオ・デル・トロはプエルトリコ出身だが、全編出ずっぱりでスペイン語のセリフに挑戦! 今だに信奉者の多い革命家に成りきって熱演した。受賞会見では「ゲバラがいなかったら、僕は今日この席にはいない。この賞はチェへ捧げたい」と語り、頬をゆるませた。

●女優賞 サンドラ・コルベローニ『リナ・デ・パッセ』
サンパオロの貧民地区に父親の異なる4人の息子と暮らす身重の中年シングルマザーを演じたサンドラは45歳の新人女優。流産のため、カンヌ映画祭への参加は叶わず、ブラジルの俊英監督コンビ、ウォルター・サレス&ダニエラ・トーマスが代理で授賞。「ブラジルのニューシネマにとっても素晴らしい栄誉!」と喜びを語った。

●脚本賞『ロルナの沈黙』監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
2度の最高賞受賞歴のある兄弟だが、賞には慣れているのではとの質問に「この世には、絶対に慣れないものがある。作品が違えば感情も毎回異なるもの。なので慣れようがないんだよ」と即答!

●審査員賞『イル・ディーヴォ』監督・脚本:パオロ・ソレンティーノ
戦後のイタリア政財界を裏で牛耳り、7期に渡って首相を務めた大物政治家ジュリオ・アンドレオッティを戯画化、『ゴモラ』にも出演したT・セルヴィッロが特殊メイクを駆使して怪演! タイトルは”神”という意味で、独特の映像センスが光る作品。パオロ・ソレンティーノ監督は「リスクのある作品だったので賞を貰えるとは考えてもみなかった」という。

◆カメラドール(新人監督賞)と国際批評家連盟賞を
受賞したイギリス映画『ハンガー』に感銘!

 ある視点部門のオープニングを飾ったイギリスのスティーヴ・マックィーン初監督作『ハンガー』が、カメラドールと国際批評家連盟賞をダブル受賞した。
 実話の映画化である本作は、81年に北アイルランドのメイズ刑務所で、政治犯としての待遇を求めるハンガーストライキを率先し、一番最初に獄死したIRAの活動家ボビー・サンズを描いた社会派映画! まずは、その緊張感みなぎる導入部から圧倒された。1人の看守(スチュアート・グラハム)の日常生活を淡々描くのだが、その後のタダならぬ展開を予感させるミニマムな演出は、まさに鳥肌モノ! 看守たちのIRA活動家に対する過酷な暴力、そして痩せ衰えていくボビー・サンズ(マイケル・ファスベンダー)の様子も刻々とリアルに描写。圧巻なのは、サンズと神父(リーアム・カニングハム)が対峙する姿を捉えた驚異の長回しシーンで、英国俳優の力量をまざまざと見せつけてくれた。個人的には、今年の映画祭を通して最も感銘を受け、最大の収穫作となった『ハンガー』。日本での公開を熱望!
(記事構成:Y. KIKKA)