カンヌ国際映画祭もいよいよ終盤。今回は5月23〜25日に上映された作品を紹介しよう。まずは23日にコンペ部門で上映された脚本家チャーリー・カウフマンの初監督作『シネクドキ、ニューヨーク』。続いては24日に招待上映された豪華キャストの韓流ウエスタン『ザ・グッド、ザ・バッド、ザ・ウィアード』。そして映画祭のクロージングを飾った『ホワット・ジャスト・ハプンド?』の3本だ。
 ところで、あいにくの雨模様が続き天候に恵まれなかった今年のカンヌは、ドルおよび円に対するユーロ高にフランスの物価の急上昇が加わったことで、海外参加者の負担金額が激増! ジャーナリストの中にも早めに帰国の途に着く者がチラホラと現れ、メインストリートのクロワゼット通りも次第に閑散としてきた感じがする。

◆あの脚本家チャーリー・カウフマンが監督デビューを飾った話題作『シネクドキ、ニューヨーク』

 妻に去られ、恋人にも捨てられて、人生に行き詰った劇作家(フィリップ・シーモア・ホフマン)が、自らの人生の再生を賭けて、ある巨大な芸術プロジェクトを構想する。それは新しい“ニューヨーク”を作り出すことだった……。『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』『エターナル・サンシャイン』等、その奇想天外な発想で賞賛を浴びてきた脚本家チャーリー・カウフマンが満を持して放った監督デビュー作『シネクドキ、ニューヨーク』は、朋友スパイク・ジョーンズ監督がプロデューサーに名を連ねた話題作だ。

 23日の午前中に行われた公式記者会見。出席したのは監督&脚本のチャーリー・カウフマン、俳優陣のフィリップ・シーモア・ホフマン、サマンサ・モートン、ミシェル・ウィリアムズ、キャサリン・キーナー、トム・ヌーナン。そしてプロデューサーのスパイク・ジョーンズとアンソニー・ブレグマンという総勢8名。タイトルの“シネクドキ(提喩法)”とは一部で全体を、全体を一部で現す表現形式のことだが、会見ではこの発音の難しいタイトルと複雑な構成に対しての質問が集中した。
 タイトルに関して、チャーリー・カウフマンは「僕は、あまり内容を明かさない難しいタイトルが好きなんだ。前回書いた脚本は、ちょっと覚えづらいっていう理由から『Eternal Sunshine of a Spotless Mind』(邦題『エターナル・サンシャイン』)という長いタイトルにした。自分でもなかなか覚えられなかったよ。でも、色んな人からタイトルのアイディアはどこから来たのかと質問されて、そのうちにちゃんと覚えた(笑)。そして、それは観客も同じだって気付いたのさ。今では、誰もがこの映画のタイトルを知ってますよね。観客が新しい言葉を覚えることは、悪くないんじゃないかな」とコメント!

◆招待上映部門で大いに気を吐いた韓流ウエスタン『ザ・グッド、ザ・バッド、ザ・ウィアード』

 今年は日本映画と同様にコンペには選出されなかった韓国映画だが、24日に招待部門で上映され、大いに気を吐いたのが『ザ・グッド、ザ・バッド、ザ・ウィアード』だ。この作品は『箪笥 ‐たんす‐ 』『甘い人生』で知られる韓国の気鋭監督キム・ジウンが、ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ウソンというビッグスター3人を主演に迎え、壮大なスケールで描いた大活劇!
 日本統治下にあった1930年代の満州(現・中国東北部)を舞台に、盗賊のソン・ガンホ(変な奴)、冷酷な殺し屋イ・ビョンホン(悪い奴)、賞金稼ぎのチョン・ウソン(いい奴)が、宝の地図を巡って繰り広げる三つ巴のバトルを描いた大作で、公式記者会見も24日に行われた。
 タイトルからも察せられるように、本作はクリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタン『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗(原題:The Good, The Bad, and The Ugly)』をモチーフにした痛快作で、韓国が誇るビッグスター3人が一堂に会した超豪華な記者会見だったが、残念ながら集った記者は韓国人と日本人を中心とするアジア人ばかりだった。

◆デ・ニーロがハリウッドのプロデューサーを演じたクロージング作品『ホワット・ジャスト・ハプンド?』

『レインマン』でオスカーを受賞した名匠バリー・レヴィンソン監督の新作『ホワット・ジャスト・ハプンド?』が映画祭最終日の25日に上映され、同日の午前中に公式記者会見が行われた。この作品はハリウッドの映画プロデューサーが、仕事とプライベートの狭間で苦悩する姿を映画製作現場の内幕を絡めて描いたコメディだ!
 2度目の離婚をしたばかりの映画プロデューサー、ベン(ロバート・デ・ニーロ)は次回作の製作もどんづまり。なんとか人生を立て直そうとするが、年頃に成長した娘、元妻たち、脚本家、気難しいスターたちに生活をかき乱されるばかり。やっとカンヌ映画祭に出品できるクオリティの映画の製作にこぎ着けたものの、犬を殺すラストシーンを巡って対立する監督とスタジオ・トップの板挟みになり……。ブルース・ウィリスが本人役で登場したり、カンヌ映画祭に出品される劇中映画の主演俳優を今年の審査委員長のショーン・ペンが演じる等々、凝った趣向にニンマリとさせられる作品で、ジョン・タトゥーロ、ロビン・ライト・ペンらが共演している。

 記者会見には主演のロバート・デ・ニーロ、監督のバリー・レヴィンソン、脚本家のアート・リンソンが出席。ハリウッドを揶揄した脚本について問われたアート・リンソンは「意図したのは、至極まじめな視点かつ、内部を良く知る者の目により、どれくらいこの業界が笑えるかってことを示したかったのさ」とコメント。
 実際に同作のプロデュースも兼ねているロバート・デ・ニーロは、プロデューサー業について「以前、監督した『グッド・シェパード』をプロデュースした時に大変な思いをした経験が、この役を演じるための下地となった」と苦笑しながら返答。バリー・レヴィンソン監督はカンヌ映画祭について「プロデューサーやスタジオ、監督にとってカンヌは特別な場所。映画はいろんな国で見られるべきだし、アメリカ国内だけで満足してはいけないんだ。国際市場へと広げる上でも、人間関係の上でもカンヌは大切なんだよ。カンヌで評価を得るということは大変な価値があるんだ」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)