カンヌ映画祭最優秀男優賞を『誰も知らない』で受賞した是枝裕和監督の最新作は、大人になって家を離れた子どもたちと老夫婦の一日をたどる家庭劇。
28日(土)、映画『歩いても 歩いても』の初日舞台挨拶が行われ、阿部寛や樹木希林をはじめとしたキャスト陣と是枝監督が、朝早くからの上映にも関わらずほぼ満席となった劇場に駆けつけた。

昨年の夏に撮影したという本作。1年が経過して阿部は「まさに暑さに浸りながらの撮影でしたね」と振り返り、「是枝監督の書いた脚本がとてもすばらしかったので、なるべく監督の映画の邪魔にならないようにしたいと、それに僕は身長が高いのでキャストの皆さんに溶け込めるようこの映画に従事していこうと思いました」と語った。

本作の脚本はどのような経緯でできたのか……それを監督はこう述べた。
「本当に個人的なことですが、実の母を亡くした経験から母へのいろいろな感情を自分の中で整理するために書いたんです。ですから、プライベートな要素がかなり色濃く出た作品になったと思いますね」

阿部とはドラマでも共演している夏川結衣は、本作では阿部演じる<良多>の子ども連れの再婚相手<ゆかり>を演じている。「撮影から1年、祥平も大きくなったなぁ。夏だったのでとても暑かったけど、(子役の)祥平とセミ取りをしたり、夏休みの宿題を一緒にやったりしてとてもいい夏が過ごせました」と、すっかりお母さんの顔つきになってしみじみと答えた。祥平くんはうれしそうに「あれから5cm背が伸びました」と自慢顔でにっこり。

幼いころから憧れていたという樹木と共演できたことを「まさか親子を演じられるなんて思っていなかったですね。スタジオに入っても私はなんか素人みたいな感じになってしまったんですけど、樹木さんに大きく受け止めていただいてとてもうれしかったし、勉強になりました。おもしろい方でもあるので、幸せな夏でしたねー」と興奮気味に話すのはYOU。阿部(良多)とYOU(ちなみ)の母を演じた樹木は「こんなにかわいいYOUちゃんと、こんなにハンサムな阿部さんが私から産まれるわけがない。そこが母親役として心配でした」と会場を笑いに包んだ。

ほのぼのと本当の家族のように会話を楽しむキャスト陣の傍らで、ひっそりと佇んでいたのは原田芳雄。撮影時も少しの待ち時間があれば、皆と関わらずにひとりだけ控え室に戻ったという。それは、家族の中で居場所を探せない父親を演じるために、わざと皆と溶け込まないようにしたからである。
「撮影のセットでも居場所がなくて、早く終わってくれればと思っていました」と寂しげにほほ笑む原田は、撮影が終わった今では“やっと皆の中に入れる”と少しホッとしているようだ。

二児の父親役を演じた高橋和也は、監督の「映ってないときでも子どもたちと遊んでやってくれ」という注文に従い、張り切って子どもたちの面倒をみていたそうだが樹木はそれを勘違いしていたようで「そうとは知らずに……私、うるさい役者だなぁと思ってました。ごめんね。ご苦労さまでした」と本音を明かし、またもやキャストや観客たちの笑いを誘っていた。

映画『歩いても 歩いても』はキャストもスタッフもすばらしい面々が集まってできた作品だが、阿部も「非日常的なことは何一つ起こりません。日常の中にはかなさや家族が生きていくことの美しさ、孤独があることを示しています」と言うように、決して派手で大きな映画ではない。しかし、劇場を後にしたときに持ち帰るものはきっとかけがえのない大切な気持ちなのだろうと思った。

(Report:Naomi Kanno)

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=46103