映画『ぐるりのこと。』公開を記念し、NPO法人シブヤ大学主催「法廷画家のお仕事。〜映画『ぐるりのこと。』から考える裁判」というイベントが6月21日に行われ、現役の法廷画家である染谷栄さんと、『ぐるりのこと。』の橋口亮輔監督を講師に迎えてのトークが行われた。

先日死刑が執行されたばかりの宮崎勤や地下鉄サリン事件の松本智津夫など、日本を震撼させた数々の事件の法廷を目の当たりにしてきた染谷さんに、映画のために実際に東京地裁や大阪地裁に足しげく通った橋口監督が話を聞きだすスタイルで、トークは2時間近くに及んだ。

対談後の質疑応答では、20代の女性が橋口監督に「まずは最初にお礼を言わせてください」とはにかみながら立ち上がり、「先日、彼氏と一緒に『ぐるりのこと。』を観に行ったら帰りにプロポーズされました。ありがとうございました!」と激白し、思わず会場内から大拍手が沸き起こる幸せなハプニングも。
最後は橋口監督が「信じられないような事件が繰り返し起こる現実。だけど、そんな社会を生きながらも、希望とはやはり人と人とのあいだにしかない」と締めくくった。

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講師:染谷栄(テレビ朝日専属法廷画家)、
   橋口亮輔(映画『ぐるりのこと。』監督)

○橋口亮輔監督
最近の事件やニュースを観て、映画の世界から現実に地続きに繋がっていくような、何とも言えないリアルな感じを持った。今回の映画では、90年代からの10年間の事件をモチーフとして、人の中に存在する差別意識を表したいと思いました。法廷画家のどの事件、被告にもジャッジをしない、観察者としての視点——
たとえば福田和子のうなじが色っぽかったとか、音羽幼女事件の山田みつ子被告の髪はカラスの濡れ羽色というべき美しさだったとか、レッサーパンダのぬいぐるみをかぶって人を殺した男性の指が非常にきれいだった、とか——が面白いと思って映画にしました。
常々、ドラマなどに出てくる法廷シーンに違和感を持っていました。法廷画家さんが仕事で入るような、重大な事件が裁かれる東京地裁104号法廷は、窓もなく平面で、何も変哲もない空間に、被告と一緒にいる。裁判官も検事も弁護士も普通の人で、日常の延長線上にある法廷、そこが面白いと思った。法廷シーンの後、「人は鬼にはなれない」と(主演の)リリー・フランキーさんからメールをもらい、普段はいいかげんなオヤジだけど(笑)、人の本質を見ているんだな、と思いました。

○染谷栄さん(テレビ朝日専属法廷画家)
法廷画家は裏方の仕事なので、映画でどんな風に描くのか不思議に思った。
1993年の甲府信用金庫事件が最初の仕事。デザイン会社のプレゼンテーションで絵を描く仕事をしていた。ポスターやチラシを早描きしていたから早く描けると思われたのかもしれない。法廷画家の仕事は不定期で、最初は1年間で3回、2年目は10回。1994年の地下鉄サリン事件で急に(仕事が)増えて、1年間で149件の法廷に行った。初めは仕事というより使命感が強かった。どんな風に描いても放送されてしまうという緊張感で、とても仕事として描けなかった。
先日、死刑が執行された宮崎勤は、自身の裁判中にも関わらず、 他人ごとのように鉛筆回しをしていました。入廷する時にしか被告の顔は見られないのですが、少し微笑んでいたというか……緊張感のなさを伝えなければ、と思いながら描きました。
逆に、一番描きにくいのは表情のない顔です。『ぐるりのこと。』に出てくる104号法廷が寸分違わずびっくりした。判決のシーンで、報道記者が飛び出すシーンや、腰を浮かせて待っているシーンなど、ひとつひとつの描写が細かく、リアルだなと思いました。撮影の合間に裁判長席に座らせて頂いて感動しました(笑)。

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