1985年8月12日。群馬県、御巣鷹山にJAL123便墜落。死者520名──世界最大で最悪の単独航空機事故発生。当時、地元紙の記者としてこの大事故を取材した作家・横山秀夫の大ベストセラーが、ついに映画化された。17日に行われた映画『クライマーズ・ハイ』記者会見には、原田眞人監督はじめ出演者の堤真一、堺雅人、尾野真千子が出席し、自身が体験した “クライマーズ・ハイ”などを発表。また、この大事故の遺族のお一人、美谷島邦子様(8・2連絡会事務局長)からコメントも寄せられた。

堤:7月5日公開の本作をとにかく少しでも多くの方に観ていただきたいです。僕も三谷さんのようにバラエティに出られればいいんですが、そんな才能ないので(苦笑)。
監督:堤さんと同じく、私も三谷さんのように鼻息で笛を吹いたりできませんが(苦笑)、ジャーナリストとして取材活動にあたり、いつ自分も乗客として落とされるかもしれないといった様々な想いを込めて作りました。

──原田組に参加して
堤:監督とは『魍魎の匣』に続いて2回目ですが、役者を自由にさせてくれて僕としてもやりやすかったです。堺さんや尾野さんと真正面から向き合って芝居ができたことを幸せに感じます。また、監督のことは『魍魎の匣』に入る前に「すごく怖い監督」と聞いていましたが、それは監督が映画に真剣に向き合っているからだと思います。別にヨイショしているわけじゃないんですが……(笑)。
堺:監督はすごく攻めの姿勢でいることを許してくれる方です。「どんどんやれよ!」と全て受けてくれる、懐の深い方です。
尾野:私は27歳になるんですが、この歳ですごく勉強させてもらえたと思える監督でした。
監督:皆さんとは楽しくコミュニケートできました。私は「怖い」というイメージがあるようで、『魍魎の匣』でも田中麗奈さんが近づこうとしませんでした。だから今回は、リハーサル期間中にいかに優しく見えるかを自分のテーマにしていました(苦笑)。本作は撮影もテーマも大変な作品なので、連帯感を大切に考えながら作りましたね。僕にとっても刺激的な現場でした。

──ご自身が演じた記者の魅力とは
堤:僕が演じた<悠木>という人物は、孤独で孤高といったイメージでした。僕はいつも撮影中以外はベラベラとおしゃべりをするんですが、この作品では若い俳優とほとんど言葉を交わしませんでしたね。それは無意識だったんですが、<悠木>が僕にそう仕向けたような気がします。
堺:自分の仕事で世界と勝負しているといった感じがカッコいいですね。
尾野:女性の魅力というより、身なりも気にせずに男性たちに必死についていこうとする男らしさが私の演じた<千鶴子>の魅力じゃないかと思います。

──遺族の描き方について
監督:僕はもっと遺族のことを描きたかったんですが、原作者の横山さんから「君は“クライマーズ・ハイ”を描きたいのか、それとも“日航機墜落事故”を描きたいのか?」と釘を刺され、自分も「そうだな」と納得しました。横山さんは遺族にとても気を遣われているので、壮絶な事故現場のシーンは幻想的な処理を施しました。

──共演しての感想
堤:堺さんには今までやわらかくて癒し系のイメージを持っていたんですが、事故現場の山から下りてくるシーンでは、目つきが尋常ではなくすごかったんです。彼が現れた瞬間、空気がガラリと変わって僕も一歩引いてしまうくらい圧倒されてしまいました。尾野さんはちょくちょくセリフをかんでいたというか、セリフを忘れていたというか、とにかくパニック状態だったようです(笑)。でも本番は一発で決めましたから、いい役者さんだと思います。
堺:堤さんは芯が太くてぶれない、そこにいるだけですごい人です。単純に一緒にやっていて楽しかったです。監督は、「とにかく前に進むことだけを考えろ!」と言っていましたね。それは演じていて心地よかったです。だから、年齢もキャリアも関係なく、この現場ではみんなが全力で走っていました。

──本作で新聞記者を演じてみて、実際に記者になってみたいと思ったらその理由を。なりたくないと思えばその理由をお願いします。
堤:これ、やりたくないとは言えないよね(苦笑)。真実を追って探ってくということは魅力的だと思いますが、何かを暴くために動いていても逆に利用されたりする可能性もあると思うと、報道することの怖さも持ち合わせていると思います。でも今回この役を演じてみて、新聞作りの大変さや新聞に対する見方がすごく変わりました。
堺:記者は追いかけるカッコ良さはありますが、意図せず加速しすぎたときに人を傷つけてしまうこともあると、外から見ると思いますね。中にいるとなかなか気づかないかもしれませんが。
尾野:私はできないと思います。楽しいことはいくらでも聞けますが、遺族の方に話を聞くとなったら別。演技ではできるかもしれませんが、実際には無理だと思います。

──撮影中、自身が体験した「クライマーズ・ハイ」は?
堤:“撮影中”です。撮影が終わってからドッと疲れが出て、何週間も何もしたくないし、何も見たくないといった状態が続きました。今思うと、ずっと撮影中はクライマーズ・ハイだったんじゃないかと思います。
堺:“下山時の格好”です。この格好のおかげでハイになれたと思います。メイクさんと衣装さんの他力本願のクライマーズ・ハイですが(苦笑)。
尾野:“現場に入った瞬間”です。プレッシャーのせいで、自分自身でクライマーズ・ハイにしてしまった気がします。
監督:“墜落一報シーンの編集”です。このシーンを自分の思うようにしないと映画自体がどうなるかわからない、と。でも一番ハイだったのは、GAGA宣伝部の女性たちかな? 先日のメールでは、(劇中のセリフで)“3週間きったぞ!3週間!!”と送られてきて、この作品が終わったら大丈夫かと心配になりました(苦笑)。

(この事故で9歳の子を失った遺族の一人・美谷島邦子様のコメントを受けて)
監督:9歳の男の子がお父さんもお母さんもいないところで亡くなってしまった。この衝撃を私はずっと引きずっていました。本作は子を思う親の気持ち、親を思う子の気持ちをテーマに描いています。これからもこの作品を応援していただきたいです。

※クライマーズ・ハイとは──
登山時に興奮状態が極限まで達し、高さへの恐怖感が麻痺してしまう状態のこと。

(Report:Naomi Kanno)