25日(日)、恵比寿ガーデンシネマにて絶賛上映中の映画『愛おしき隣人』の公開を記念して、スペシャル・トークイベント第3弾が開催された。
今回のゲストは、昨年『笑い展:現代アートにみる「おかしみ」の事情』の企画にも携われたアート界の第一線で活躍中の片岡真実。そして、マシュー・バーニードキュメンタリー作品などアート映画のプロデュースをされている、鈴木朋幸。『愛おしき隣人』には、監督がこだわり抜いた美しいセットや、その色彩に至るまでアート的な要素が盛りだくさん。ゲストのお二人に、「絵画的」や「アートと笑い」をキーワードにこの映画の存分に語ってもらった。

鈴木:ユーモラスで笑いが散りばめられている、そしてアーティスティックな映画ということで、今日は我々がお話することになりました。

■“アートの中の笑い”について──
片岡:この作品の中の“笑い”は低血圧的で、シニカルさを含んだクスクスっとした笑いだと思うんです。このような笑いは、アートの中にもたくさんあって、日常や現実を、少し下がって客観的に見るうえで有効に働くんです。

鈴木:ちょっとした他人の不幸を笑う、というような笑いですよね。

片岡:それから、登場人物たちはとても真面目に過ごしているんです。でも、真面目な様が他人から見ると余計滑稽に見えます。

鈴木:特別に良かったと思われる“笑い”はありますか?

片岡:印象に残る笑いというよりは、全体的にどこかちょっと変というような奇妙さや珍妙さが、最初から最後まであると思うんです。

■『愛おしき隣人』は”絵画的”?
鈴木:色も北欧的できれいですよね?

片岡:全体を通してブルーのような緑色のような色調が続いていくのが印象的でした。 この映画が“絵画的”だと思った理由として、監督は美術家になりたかったそうですが、俳優の動きがあまりなくて、カメラワークもあまり大きくない、それが動画と静止画の中間にあるような感じがしました。
しかも、登場人物がいつも画面の中心ではなくて、左や右の端の方にずれている。そこに不思議な余白が生まれてきて、その余白に緑色が充満しているようで、 どの場面を切り取っても写真作品になりそうな感じがしました。絵画の遠近法を使っているシーンが何度も出てきます。カメラを動かすことで奥行きを感じさせるのではなく、透視図法的な方法で空間を生み出しています。

鈴木:ロイ・アンダーソン監督は、カンヌの広告祭の方でも受賞している監督ですが、彼のコマーシャルにも同じようなシーンがあって、似たようなセットやアングルで撮られていて、これをチェックして映画に振り返ってみると、また面白いと思います。

■『愛おしき隣人』と現代アート——
片岡:この映画の扱っているテーマは、日常的で誰の中にでもある毎日だと思うのですがそれは現代アートでも、90年代以降、大きなテーマのひとつであり続けていて、特に冷戦構造が崩壊した後、イデオロギーがなくなったということで、それぞれが等身大の自分というのをもう一度見つめ直す動きが、絵画、彫刻、映像作品にも表れてきています。そういったところは、この映画にも通じていると思います。

■最後にお二人よりひと言——
鈴木:この映画の笑いは日常生活の中でも起こり得ること、皆さんの体験の中にもあるようなことなんです。それが、違ったものと違ったものが合体してデフォルメになるんです。”合わせ技一本”となって、笑いに陥るところがあるんです。一回と言わず、二回、三回と足を運んで観て頂きたいですね。

片岡:チャップリンの言葉で 「人生は近くでみると悲劇だけど、遠くでみるとコメディだ」という言葉があって、その距離感がこの映画に合ってるように思えました。