タイを舞台に、人間の傲慢さと欲望の代償として、幼児売買春、臓器密売など、罪のない幼い子供たちが安易に金銭取引されている事実を、包み隠すことなく描いた映画『闇の子供たち』。
夏休みに公開される本作の阪本順治監督と主演の江口洋介を迎え、貧しさから人身売買の標的となっているアジアの子供たちの問題について関心の高い学生たちを中心に、パルテノン多摩にてティーチ・イン試写会が行われた。

[齋藤百合子先生(司会進行・恵泉女学園大学)]
●阪本監督が「この『闇の子供たち』を映画化したいのですが、協力して頂けないでしょうか?」と恵泉女学園に来られたとき、私は原作を読んでいたので「映画化には反対です」と申し上げました。けれどもその後、2回くらい台本を書き換えられたものを読んだときに、もう批判出来ない、と思うくらい素晴らしい台本になっていました。それと同時にこれが映像化されたらどうなるんだろう、と逆の不安もありました。
●ついに作品が完成して拝見したのですが、子供たちへの細かい配慮は本当に尊敬していますし、映画の中で本当にきれいな強いまなざしを持った子供を撮影してくださったことが嬉しかったです。そして若い人たちに是非観て欲しい、若い人たちがどんなことを考えているのかを教えて欲しいという思いで、試写だけではなく、ティーチ・インを大学生を中心にして多摩で開いてくださったことをありがたいと思いました。

[阪本順治監督]
●人身売買というのはその人の尊厳を売買するということ。今回、その対象が子供であるということで、より深刻になります。抵抗力のない子供たちの子供らしさや自然の営みが奪われる事実、その事実が身近に存在するということを知ってしまった以上、僕らは映画を作る人間として逃げることはできない、向き合うべきだろうと思いました。
●タイという国を舞台に、この映画を描くとき、僕らは旅人として通り過ぎてしまう存在。だからこそ、誰かを傷つけることになりやしないかという恐怖心が常にありました。日本のネットで多くの日本人がタイや中国などに子供を買いに行っている現実を知り、この映画はタイを舞台にしていても、必ず我々日本人に跳ね返ってくる物語にしなくてはいけないと思いました。
●豪華なキャスティングとよく言われるんですけど、僕は豪華だとは思いたくない。やはり、「こういうテーマで映画をやるんだけど、一緒に参加してくれないか?」と声掛ければ、有名であろうと無名であろうとそこに俳優として参加する意味を見つけてくれれば、当然やってくれるはずだと。今回の俳優陣はカメラの前だけでなく、日常的に何らかの自問自答をしているだろう、世間にもちゃんと目を向けているだろう、そういう予感のする人たちであったし、実際そうであったと思います。
●観て頂いて、アクションを起こして下さる方もいると思いますが、この映画はそれを強要している訳ではありません。僕自身がそうであったように、まずたじろいでもらう、そして映画館から外に出たときに、多分色んな風景が違って見えたり、若者が違って見えたり、子供が違って見えると思うんですよね。そういうところで、みなさんが映画をきっかけに何か見えるものが変わってくれればいいなと。

[江口洋介さん]
●この役のオファーがあって出演を決めるまで、1〜2週間悩みました。この映画に描かれている“闇”は自分とは遠いものだと思っていましたが、挑戦しなければ!と思って決めました。
●この映画は、自分はどうするべきかを考えさせられる作品です。幸せや平和を願うからこそ「こういう映画に出演した」といつか自分の子供にも言いたいです。
●平和でありたい、幸せでありたいと思う気持ちの逆発想としても考えられる映画だと思います。(映画を見た)皆さんの意識が変わっていくことが大事で、ナーバスに捉えてほしくはないが、こういう(人身売買などの)問題があることを知って欲しいです。