この1組の夫婦の“ぐるり(自分の身の周り。自分をとりまく様々な環境を通して、人と人とのつながりから生まれる“ささやかだけど大きな幸せと希望”が見事に描かれた映画『ぐるりのこと。』。
8日(木)に舞台挨拶付きプレミア試写会が開催され、前作『ハッシュ!』から6年ぶりとなる橋口亮輔監督、妻・翔子役の木村多江、ひょうひょうと生きる法廷画家の夫・カナオ役のリリー・フランキーが登壇した。
木村は出産後、公の場に初の登場ということもあり、会場は熱気に包まれていた。

<橋口監督>
前作『ハッシュ!』では孤独な人たちが一瞬つながる大切さを描いたので、今回はずっとつながっている人たちを描こうと思いました。法廷画家をテーマに選んだのは、バラエティ番組で法廷画家の存在を知ったからです。本当に、映画を作る人間のカンというか…実際に法廷画家さんに話を聞いて形になっていきました。
2人の演技は演出ではなく、まさに映画の神様が微笑んでくれたとしか思えない瞬間の演技があります。何気ない表情など、アドリブや演出ではできない。お二人の存在に尽きます。素晴らしい演技に自分の時間を重ねあわせて観ていただければ、作り手としてこんなに幸せなことはありません。
ぜひ、楽しんでご覧ください。

<木村多江>
橋口監督の作品が好きで、監督の作品に出演できるなんて夢のまた夢だと思っていたので、お話を頂いたときはびっくりしました。「翔子を作るのではなく、木村多江のドキュメンタリーを撮る」と言って下さり、「翔子は私だ」と思う部分はありましたが、役にスっと入れなくて苦労しました。自分にとって苦しかったり、つらかったり、封印していたものを出すまでの、役と自分の見分けがつかなくなる前の段階が苦しかったです。リリーさんはとにかくお芝居が上手。俳優の「俳」という字は「人」に「非」ずと書きますが、本当に「俳優」らしい。翔子がカナオにひっぱられるように、私もリリーさんにひっぱられました。(撮影後、出産を終えて)子供が生まれて「ありがとう」という気持ちですごしています。母として、また人間として支えられていることを感じて生きています。この映画は、小さなことが幸せだと思える映画です。
みなさんもぜひこの幸せを感じて下さい。

<リリー>
ボクはだらだらしている役なんで、普段と違うことをしてるとも思いませんでした。木村さんは役に入り込んでいきましたけど(笑)。支えることはできないけど、小さな声で頑張れ、と。橋口監督は思い、人生、憤り、いろいろなことを作品にされる方。お手伝いをさせて頂いた感じです。スタッフ、出演者全員が精度の高いものを作る厳しさに共感していました。犯罪とか、ねじれを当たり前のように感じる世の中で、多くの人が誰かと一緒にいながら違う誰かを探している。そういう恋愛を繰り返していると、不安はなくならない。何があっても一緒にいてくれる人がいる。このことがどんなに豊かなことか。映画が終わった後、有楽町の町があったかく見えるようになりますので、お楽しみください。