実在の事件を基にした映画『美しすぎる母』 トム・ケイリン監督&プロデューサー来日記者会見
一代で富を築いた大富豪ベークランド家に嫁ぎ、愛する息子に殺された実在の女性、バーバラ・ベークランド。なぜ、彼女は息子に殺されたのか?
2007年第60回カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、スキャンダラスな内容で賛否両論を巻き起こした衝撃作、ジュリアン・ムーア主演映画『美しすぎる母』。監督のトム・ケイリンは、長期にわたる事件の調査を取り込んだハワード・A・ロッドマンの脚本を、サスペンスフルに交錯していく感情を密度濃く描いた一級の人間ドラマとへと昇華させた。
18日、本作の公開に先立ち、トム・ケイリン監督、プロデューサーであるケイティ・ルーメルの来日記者会見がBunkamura オーチャードホールにて行われた。
Q.実在の事件を基に執筆された原作はタブーも多く描かれていますが、なぜ映画化しようと思ったのでしょう?
プロデューサー:複雑なキャラクターとストーリーだからこそ興味を惹かれたの。この人物たちはどのような人間で、どうしてこのような道を選んでしまったのか……そのようなことを探求して、それが今も続いているのよ。
監督:古典的な悲劇の要素に釘づけになり、深い愛、特に夫婦愛や母と子の愛についての物語に興味を持ったんだ。
Q.小説を映画化する上で
監督:原作では1946年〜72年を描いているため、違う時代をうまく見せつつキャラクターたちが辿った長い旅を描くことは、自分にとってチャレンジだった。しかし、ユニークで個性的で才能豊かな俳優たちにめぐり合えたことで、うまく乗り越えることができたよ。
また、アメリカ人の私がスペインで撮影を行うこともチャレンジだったし、これは4つの国を舞台に描いているんだが、全ての撮影をバルセロナで行ったのもチャレンジだったね。
Q.ジュリアン・ムーアとエディ・レッドメインのキャスティングについて
プロデューサー:ジュリアン・ムーアは監督が早くから「この役には彼女しかいない」と決めていたの。アントニー役のエディ・レッドメインに関しては、100人の候補者の中からオーディションで選んだわ。
監督:そうだね。エディ・レッドメインは最終選考でジュリアン・ムーアと台本の読み合わせをさせたんだが、その時にジュリアンも私も「見つけた」という感覚があったんだ。彼は本当にジュリアンの息子だと言っても納得できるルックスだったしね。撮影が始まると、ジュリアンはパッと切り替えができるタイプなんだが、彼のほうは直感もすばらしいものがあるが、しっかり準備をして挑む俳優だと気づいた。そのように全くタイプの違う俳優のコラボレーションはとても興味深かったな。
Q.この事件の他にもショッキングな事件はたくさんありますが、何故この事件ではないといけなかったのでしょうか?
監督:根本的な人間関係があったからさ。家族間で起こった事件で、どこまで愛したら良いのかといった愛のリミットや、愛の境界線を扱った犯罪だったからね。僕はこの事件を思いやりを持って描こうと思った。彼らは極端な行動を起こしてしまったが、これは人間の本質を探究できる事件だと思ったんだ。
Q.なぜ<トニー>は母親殺しをしてしまったのだと思いますか?
監督:どんな子供もいずれは親元を巣立たなくてはいけないが、アントニーは母親にそれを許されなかったんだ。この母親はとてもナルシストで、それが原因で母子の愛情が破滅へと向かっていった。だからアントニーが母親を殺した時、きっと2人とも解放されたと思う。本作を観た観客には、“本当にアントニーが殺したのだろうか? もしかしたら母親は自殺だったんじゃないか?”ということを考えてほしい。絶望から抜け出せなくなってしまった母親は自ら命を絶つより、1番愛する息子に殺してほしいと思ったかもしれないから。
Q.バルセロナでの撮影について
監督:スペインではビーチで撮影する予定だったから“楽だろう”と思っていたら、ビーチにはたくさんの人がいてびっくりしたよ。しかも、皆が裸! 本作は60年代を描いていて、当時ビーチで裸になっている人なんていなかったから、絶対に絵の中に映りこまないようスタッフも必死だったね(苦笑)。あと、夏に撮影したんだが、雪のシーンの時は塩を使ったりもした。俳優たちにも毛皮を着させてしまって、シーンごとに汗ふいて……の繰り返しだったよ。
(Report:Naomi Kanno)