第二次世界大戦後、大切な者たちのために全ての責任を背負い、B級戦犯として裁判に立ち向かった一人の男がいた。東海軍司令官・岡田資(おかだ・たすく)中将だ。映画『明日への遺言』は、誇りや品格を見失った現代にこそ観てほしい、岡田資の誇り高く清清しい佇まいと生き方を描いた感動の実話である。

6日に行なわれた“想いをつなぐスペシャル試写会”と題した一般試写会に、監督・出演者が登壇、あいさつを行なった。「とても難しい役柄なので、出演の覚悟を決めるまで半年ちかくかかってしまいました。でも、日本人としての品格、そして自分の主張を最後まで通して戦った、資さんの精神の片鱗に少しでも触れられたら……と思って参加することを決めたんです」、そう話すのは主人公<岡田資>を演じた藤田まこと。

藤田とはなんと50年ぶりの共演で、本作では妻として夫を最後まで見守り続ける<温子>を演じた富司純子は、「藤田さん無くしてこの作品はなかったと感じております」と言い切り、「(藤田さんは)私が側に近づけないほど集中されていました。また、私は自分の出演した作品は冷静に観すぎてしまっていつも欠点ばかり気になるのですが、この映画を観たときは涙が止まりませんでした。本当にすばらしい作品が誕生したと思っております」と穏やかな笑顔を見せた。

映画『雨あがる』や『博士の愛した数式』で世界中に優しさと感動を届けた小泉堯史監督にとっても、構想約15年かけてようやく世に送り出せることになった本作への想いは並々ならぬものがあるようで、「やっと公開することになりました。非常に難しい題材でしたが、プロデューサーである原正人さんの後押しもあって無事に長い旅を終えることができました」とホッとした表情。米カリフォルニア州で開催された第23回サンタバーバラ国際映画祭でも大絶賛だったそうで、アメリカ人の懐の深さと温かさに感激したという。それには藤田も、「“拍手がずっと鳴り止まなかった”と監督から聞いたときは本当にうれしかったです。<資>の心の叫びを少しでも表現できたら、と思っていたから」と胸の内を語った。

また、「今回は役になりきるというより、資さんが自分の中に入ってくるといった不思議な体験をしたんです。だから撮影が終わった後は10日間くらい虚脱状態に陥ってしまいましたが、”これが自分にとって最後の作品にしたい“と思うほど、忘れられない作品になりました」と喜びをあらわにした。

そんな中で花束を持って登壇したのは、出演はしないが本作で初のナレーションを務めた竹野内豊。「ナレーションは初めてだったので不安はもちろんありましたが、監督から“言葉の意味を自分で理解して。そうすればきっと聞く人に伝わるから……”という言葉をいただき、余計なことは考えずただ必死にやりました。僕は祖母から戦争の悲惨さを聞かされ、子供ながら”大変だったんだな“と思ったりしていましたが、今ではもう戦争を知る人間が少なくなりつつあります。親でさえ知らない世代がくる。だから、あの時代を生きた人の魂を忘れないよう、映画で伝えていくことはとても大事なことだと思います」と真剣な表情で述べた。

戦争を知らない世代にこそ、命を賭けてまで愛する者たちを守り抜いた<岡田資>の“遺言”(メッセージ)は投げかけられているのかもしれない。

(Report:Naomi Kanno)