——トニー・レオンとの共演について?

タン・ウェイ「トニーは素晴らしい俳優です。彼と初めて共演して、才色兼備という意味が判りました。初めての大役で、彼と共演できて、とても幸運でした。もちろん、撮影現場では、彼は私を新人として扱わず、私がリラックスできるよう導いてくれて、また時にはリードしてくれて、私が役に入れるよう助けてくれました。彼の助けがなければ、これほどいきいきとしたワン・チアチーはなかったでしょう。もうひとつ、彼はつねにベストコンディションで役作りをし、撮影に取り組んでいるのが特色です。
リーホンとは、ともに新人ということで、映画の撮影を通して、一緒に手を繋いで成長していったという感じです。最初は、彼は歌手ということで、まじめに演技をしてくれるかと心配していましたが、実際に演技を見てびっくりしました。しかも撮影現場では、まじめでつねに辞書とノートを手放さず、熱心に中国語の勉強をしていました。演技も素晴らしく、殺人のシーンでは彼が首をひねった後、彼の眼差しを見てハッとびっくりして、私自身の演技を忘れてしまったほどです」

ワン・リーホン「以前にもトニーとは何回か逢ったことがあり、彼はとても温かい人です。けれど撮影が始まると、お互いに役にしっかり入り込んでしまいました。私はレーダーを張り巡らしているという感じで、役柄上、敵同士なので、非常に暴君的になっていました。共演シーンはあまりありませんでしたが、彼を見ているだけでたくさんのことを学んだ気がします。撮影が終わって、ヴェネツィア映画祭で初めて俳優同士として話ができました。そこでは彼の哲学や、リラックス法や演技に対するアプローチや役作り、情熱の傾け方について、ゆっくりと話をすることができました。
タン・ウェイには非常な愛情を持っています。役柄上も、人間としても。オーディションで初めて逢ったとき、なんて可愛いいんだろう、自然な子だなと。とてもフレッシュだなと思いました。撮影中の9ヶ月間は、彼女が成長し、変化していくのを見ました。役になりきり、成長している姿に、凄いなと思って、彼女を見ていました」

タン・ウェイ「(リーホンに)ありがとうございます。そして監督にも感謝します。私たち新人に成長の機会を与えてくれてことに感謝しています」

——タン・ウェイとワン・リーホンについて面白いエピソードは?

アン・リー「面白い話はたくさんあります。『ラスト、コーション』はタン・ウェイにとって初めての映画で、1万人の候補者の中から選びました。これは、女性に関する好みの話なのですが、大陸と僕の好みはだいぶ違います。私はより古風な女性が好きです。そこで私は助監督に言いました。”みんながダメだと言う人が欲しい”と(笑)。そういう意味では、タン・ウェイは万人受けの女優ではないかもしれません(爆笑)。実は、オーディションの当日、部屋に入ってきた彼女を見て、びっくりしました。聞けば、前の日は寝ていなかったそうで、目の下にクマがあって、日焼けして真っ黒でした(笑)。実は、彼らには誰と逢うかは極秘事項で、知らされていなかったのです。だから、僕を見て全員びっくりしているように見えました。
初めてタン・ウェイを見たときは、正面からも後ろからも美しい、ただ、顔だけは風邪を引いていたのでやつれていました(笑)。けれど、彼女自身はリラックスしていたせいもありますが、そのとき私の勘が働いて、これは彼女の映画だ、彼女ならできると直感しました。彼女の持っている気質や話し方、振舞い方、そういったものすべてが私の両親の時代の女性と一致していて、また中学時代の中国語の教師にも似ていたから、タン・ウェイは受けないのだと思いました(笑)。私が追い求めていた古典的な中国の美女を見たような気がして、そのとき、私は夢の境地になりました。今や中国、台湾と、すっかり環境も変わって、私はこの映画で中国の古き良き時代を追い求めました。それは、両親や故郷を思う気持ち、それが強くなって、初めてタン・ウェイを見たとき、とてもは親しみを感じたのでしょう。私自身、ワン・チアチーに親しみを感じ、一種の代入する気持ちすら持っていました。ただひとつ心配だったのは、ベッドシーンを撮るとき、彼女とどのような関係になるのか、私がチアチーになるのか、彼女にどのように演技指導するのか、混乱しました。けれど、タン・ウェイ、イコール、ワン・チアチーだと直感し、できると確信しました。後に、脚本を読んで、撮影を終えて、私が思ったことは、タン・ウェイ、イコール、ワン・チアチー、イコール、チャン・アイリンで、3人は三位一体です。今回は、チャン・アイリンがあの世でタン・ウェイを選んでくれたと思いました。そんな縁を感じました。
俳優に関して言えば、私は今までこれほど時間をかけて、教えたり一緒に学んだりという経験はありませんでした。だから今回、タン・ウェイと一緒に得た経験は、私の人生において特殊なものとなりました。また、タン・ウェイはこの映画の中で、本当に短い期間で3つの段階を経ました。最初、彼女の役は天真爛漫で純真な女性でした。ところが、ベッドシーンを経験して純真さを失い、より成熟した女性に変化し、そして最後、クライマックスを迎えます。その過程においては彼女も勉強しましたが、僕自身も勉強しました。したがって、映画が完成してから見るタン・ウェイは、ほんとうに成熟した女性だなと、そして演技においても複雑さを持っていると感じました。一緒に闘った結果ですが、撮影現場にいて、私のインスピレーションが湧かないときは、彼女の調子が悪くなるというような、それほど私たちの間には見えない繋がりがありました。このような撮影の経験、俳優と一緒に闘って、仕事をしたのは人生において初めての経験になりました。
ワン・リーホンを選んだ最大の理由は、まさに私の若い頃にそっくりだったからです(笑)。アメリカ映画でよく言うのですが、男性の主役がカッコいいのは監督の分身だからだ、と。ワン・リーホンはアメリカ育ちですが、彼の持つ中国的な気質や教養は、私に似ていると思います。彼を見ると、私の学生時代を思い出します。私も演技を学んでいて、学生時代に主役を演じたこともあり、彼はそのときの役に似ていますし、また子供の頃見た映画の愛国青年や、映画のヒーローにもそっくりだと思い、彼を選びました。
正直、最初はそれほど期待していませんでした。イメージ通りの人物として演じてくればいい、と。ところが、一緒に仕事を始めると、彼はすごい努力家でまじめで、印象がすっかり変わって、撮影中に彼の役がどんどん膨らんでいきました。彼の役もまた最初の純真さが失われていくという2つの段階があって、その分かれ目は人を殺すシーンです。撮影現場ではテイク3のとき、彼が相手の首をひねるシーンがあまりにリアルで、私自身、怖くなってしまったほどです。僕が彼を映画に引き入れ、彼は役に没入していく。前半の彼の素晴らしい演技によって、映画の中の純真さが際立ち、また彼が人を殺すシーンでは彼の成長が判りました。その瞬間、私は彼自身がアイドル時代、童年時代に別れを告げようとしているんじゃないかなと思えました。彼と一緒に仕事をして感じたことは、重要です。私は、彼の成長過程を一緒に楽しみを分け合うような立場にいるからです。この映画を通して、彼が経験したことは、私の人生においても貴重なものになると思います。ワン・リーホンの素晴らしい演技を、私はとても誇りに思っています。
今回、トニー・レオンを含めて彼ら3人と一緒に仕事ができたことは、私の人生において最も幸運な段階だと思っています。この3人は私の3つの側面を表現してくれました。ワン・リーホンは私の持つ純真さを、タン・ウェイは心を演じてくれました。そして、トニーは言いにくいことですが、男としての心の脆さを演じてくれました。この3人はまさに私の分身だと思っています」