映画『ラスト、コーション』記者会見、ふたつの野心があって、それはマージャンのシーンとベットシーンでした。(1)
前作『ブロークバック・マウンテン』がアカデミー賞 – 監督賞・脚色賞・オリジナル音楽賞を受賞、2年ぶりの新作『ラスト、コーション』で来日、都内で記者会見を行った。
アン・リー「本日はご来場いただき誠にありがとうございます。2年ぶりの来日となります。『ブロークバック・マウンテン』で来日したときは英語をしゃべっていましたが、今回の『ラスト、コーション』は中国語の作品ですので、中国語でお話ししたいと思います。『ブロークバック・マウンテン』と『ラスト、コーション』はある意味では、姉妹のような作品です。このふたつの作品では、ともに不可能な愛についての探求を描いています。この作品を気に入ってくだされば嬉しいです。ありがとうございます。」
タン・ウェイ「みなさん、こんにちは。今回、私は2回目の来日になります。素晴らしい季節で、窓から見える景色も素晴らしく、気分良く過ごしています。作品をご覧いただいて、気に入っていただきたいと思います。私自身、今回の日本滞在の経験が楽しいものとなるよう、祈っています」
ワン・リーホン「みなさん、こんにちは、ワン・リーホンです(日本語、以下英語)。私にとってとても特別な映画です。ここに来て、皆さんにこの映画をご紹介できるのを楽しみにしています。映画を楽しんでいただければ思いますし、来日できて嬉しく思っています」
——「色・戒」の映画化のポイント、その理由について?
アン・リー「この映画の撮影に関して、面白いことを思い出そうとしたのですが、面白いことは苦痛と密接な関連性があります。『色・戒』は、私たちが色と戒めをどう見るのかという問題についての探求です。”色”は後ろに”情け”が付くと”色情”になり、これがこの作品を撮る時の最大のモチベーションになりました。撮影は、5ヶ月間118日間続きましたが、毎日の撮影時間も長く、まるで地獄に落ちたような、画家になって地獄で絵巻を描いているような気分になりました。なぜ地獄で修行しているのかと思いましたが、これほど素晴らしい勇気ある俳優やスタッフと仕事をしているのだから、地獄に落ちたままではいけない、彼らを連れて人間のこの世に戻って来たいと、努力して撮影しました(笑)。
撮影は3箇所で行ないました。半分以上は上海、残りは香港、そして1週間はマレーシアで撮影しました。現在の香港には昔の面影がほとんど残っていないので、マレーシアで古い香港の撮影をしました。たくさんの人が撮影に参加しました。上海の街は上海映画撮影所で大きなセットを建てて撮影しました。1500万ドルの投資で、中国映画ではかなり大きな額の投資になります。
私たち中国人は、日本人に比べて、古いものをあまり大事にしない傾向があると思います。だから、この映画を撮影するに当たって、美術スタッフや若手の俳優は当時の参考となるものを見つけるのに大変苦労したと思いますが、私にとって最大の収穫は、素晴らしい俳優やスタッフと仕事ができたことです。中国にこういう言葉があります。人に教えることは、その生徒から学ぶこと。今回は、有意義な勉強の過程にもなりました」
——オープニングのマージャンのシーンから、この映画は視線の映画だと気づきますが、素晴らしいカメラワークです。また、銃声は音だけで表現しているのに対して、セックス描写は官能的です。撮影上、苦労したことは?
アン・リー「戦争を通して、歪んだ形で当時の社会を通して、人間の深層を探求しようとしました。たしかに、銃弾はひとつも描かれない戦争ですが、実はこの映画のテーマのひとつは男性と女性の戦争であり、また日中戦争を描いていますが、よく見ると中国人同士の内戦も描いています。実は、私には演出上、ふたつの野心があって、それはマージャンのシーンとベットシーンでした。
マージャンは中国の国粋のゲームのひとつです。四方を囲んでいるのは城のようでもあり、このシーンを私は内戦に見立てて撮影しました。チャン・アイリンの原作の面白いポイントは、女性の視点から男性がいかに戦争に突入していくのかを描いているところで、その描き方は女性ばかりでマージャンをしているシーンから始まり、彼女たちははっきり言わないけれど、さまざまなことを考えていることが判ります。果たして、イー夫人はどれほど内情を知っているのか、このテーブルに座っている他の女性の何人が、イーと肉体関係を持っているのか。女性同士の言葉の戦いを通して、男性の戦争を見てしまう。したがって、彼女たちの表情や仕種や体の動きは優雅に見えますが、言葉の内容を吟味すると、非常に激しい攻防戦を繰り広げている。これは映画そのものです。それゆえに私は、マージャンのシーンをとても撮りたいと思いました。
また、マージャン卓にはテーブルクロスが敷かれ、ベッドにはベッドシーツが敷かれます。それぞれのシーツの上で違う世界があり、ベッドシーンでは占領と非占領のかたちで男女の関係を描いています。またヒロインは、ワイ夫人という嘘の身分を借りて、イーに近づき、セックスを通して、イーに認めてもらいたいと願います。一種の愛、情の部分を認めてもらいたいと思い、最終的にはその目的を達成します。そのために、ベッドシーンは重要であり、ここで描かれるのは色情だけではなく、人間の感情を込めた色相を描いています。だから、ベッドシーンはどうしてもきちんと撮らなくてはならないと思い、12日間、非常にプライベートな環境の中で、全員で努力してこのシーンを撮影しました。
また3つのベッドシーンを通して、それらを表現できたことに、私たちの素晴らしい俳優たちにお礼を申しあげたいです。自分を犠牲にして、このような素晴らしいシーンを演じてくれました。この3つのラヴシーンは、究極のパフォーマンスです。映画の中で、真実とは何か、虚実とは何かということは、言葉で表現することはなかなか難しく、俳優たちの究極のパフォーマンスを通して表現しようと試みました」
——30〜40年代の時代の雰囲気を掴むために努力したことは?
タン・ウェイ「撮影前に、役作りのために3ヶ月間を費やして、さまざまなトレーニングをしました。監督からは山ほど資料をいただき、先生に付いてマージャンや当時の歌の授業、また当時の人々の衣食住や社会背景、風習についても勉強しました。また、俳優同士のコミュニケーションがスムーズに運ぶため、一緒にバスケットボールをしたり、リーホンのピアノで私たちが歌ったり、集団活動を通じて少しずつ役に入り込んでいきました。役作りについては、監督から数多くのアドバイスをいただき、またこちらからも監督とのディスカッションをつねに心がけ、その都度、監督からアドバイスをいただきました。また、トニー・レオンとも一緒に勉強会を開き、そのように少しずつ役作りをしていきました。
その後の5ヶ月の実際の撮影は、まさしく私にとって勉強の毎日でした」
ワン・リーホン「アン・リー監督は本当に特別な方です。夢見る能力がパワフルで、その夢がリアルだと信じてしまえるくらいはっきりと力強いのです。私にとっても撮影前の3ヶ月はタイムマシーンに乗ったような期間になりました。私はいろんなことを勉強しなくてはなりませんでした。アメリカ育ちで30年代の中国についてまったく知りませんでしたので、中国の歴史を学ぶと同時に、キャラクターに入り込むために、言葉も学ばなくてはなりませんでした。監督は、訛りをきちんと捉えることに拘りがあったので、一所懸命学びました。観客にとっても、俳優にとっても、監督の示してくれた夢を信じるのは非常な歓びだと思いますので、私も監督についていこうと思いましたし、そのために監督は助けてくれましたし、お互いに助け合うことができたと思います。本当にゼロからのスタートの役作りでしたが、この素晴らしいチャンスを与えてくれたことに感謝しています」