かつて、「法戦」を一人戦い抜いた誇り高き人間がいた—。
太平洋戦争末期、名古屋市の中心を空爆して撃墜された米軍機の搭乗員を処刑した責任を問われ、B級戦犯にかけられた岡田資中将の誇り高き生涯の物語。

『雨あがる』で監督デビューし、『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』でも数々の功績を残した小泉尭史監督が、大岡昇平による原作「ながい旅」を読んでから、構想期間経る事15年。
岡田資中将役に、藤田まこと、そして彼を支えるその妻・温子役に富司純子という最高のキャストを迎えて完成された映画『明日への遺言』の記者会見が行われた。
本作品は、第20回東京国際映画祭の特別招待作品となっている。

登壇したのは、藤田まこと、富司純子、ロバート・レッサー、フレッド・マックイーン、リチャード・ニール、小泉尭史監督、原正人プロデューサー。
それぞれが挨拶を述べた後、質疑応答に移った。
質問に対して慎重に言葉を選びつつ答える様子に、この作品に対する思いの深さというものが伺えた。

・藤田まこと:「私ごときがこの役を演じさせて頂いていいのだろうかと思いましたが、70歳を過ぎてもうひとつ頑張ろうと思いました。13階段を登るシーンでは、肉体だけが階段を登っていて、私はこのまま本当に死ぬのではないかと思いました。久しぶりに映画に出演させて頂き、ありがたいです。」

・富司純子:「”来世で添い続けたい”というセリフがありますが、私も本当にそうだな、と思いました。」

・ロバート・レッサー:「歴史的で、残された裁判の記録でしか知る事ができない事でした。アメリカ人として、戦犯裁判の中で、藤田さん演ずる岡田中将の弁護士を演じているのですが、古きよきアメリカの中で公平な裁判のシーンを演じる事ができて嬉しいです。」

・フレッド・マックイーン:「この役(バーネット主任)を演じる事は感情的に大変難しいものでした。軍人としての彼の立場を考えると、映画を観て有罪になった岡田を軽い刑にしようとした彼の気持ちもわかるので混乱しました。」

・リチャード・ニール:「役者として、いつも難しいのは客観的に見るという事なのですが、この映画に関してはそれができたと思います。小泉さんの作品は、普通の映画とは違うリズムのある映画だと思います。平和の為に働いていく、という事が一番大切なメッセージでると感じています。」

・原正人プロデューサー:「まだ黒澤監督がご健在だった時に、彼は原作に対して”これはなかなか難しい映画だよ”と、おっしゃったのですが、それから月日が経ち、その間に小泉さんが素晴らしい作品を作ってそろそろ時期だという時になりました。恐らく私の最後の仕事になるであろうこの作品が、素晴らしいものになって小泉さんに感謝しています。戦争が終わった時、私は中学2年生で、戦争を知る最後の世代です。日本人として残しておきたい事を観客の皆様に伝わるか、これからが勝負です。」

●Q&A
Q:『明日への遺言』というタイトルですが、この映画で明日の世代にどんな事を伝えたいですか?
・小泉尭史監督:「これを作るにあたって、自分がどうしようという事は一切思いませんでした。岡田さんという人物を、何とか掴み取れたと思うので、登場人物から皆さんが何か感じ取って頂ければ嬉しいです。」

Q:岡田中将を演じて得たものとは?次の世代に何を伝えていきたいですか?
・藤田まこと:「終戦の時、私は小学校2年生で、池袋生まれだったのですが疎開で京都に行く事になりました。疎開前に、B-29が大阪の空を真っ赤に染めるのをこの目で見たのです。戦争というのは、勝った方も負けた方も人間として苦しむものなのです。兄貴は17歳で志願して沖縄で亡くなっています。
平和の尊さというのを、この映画に出てつくづく感じました。」

・富司純子:「私も終戦の年の12月1日に生まれて、そんな時に生むのは大変だったと母から聞いています。戦争は絶対やってはいけない事です。戦争を知らない世代にも知って頂きたいです。岡田さんのように、責任を取れる日本男子が何人いるのか、温子さんのように、そんな夫を支えられる女性が何人いるのでしょうか。
どうか戦争の悲惨さが伝わりますよう願っております。」

Q:日本のキャストと共演してみて、お互いの演技で変わっていると思った点は?
・リチャード・ニール:「ショッキングだったのは、皆に感激されサポートされた事です。良いテイクが撮れて、次に進む時に良くやったという事が伝わって嬉しかった。ロサンゼルスでは、映画はただの産業のような扱いになっているのですが、日本ではチームとして成り立っています。最初は弄ばれているのかと思ったぐらいでしたが、この環境に慣れてしまってまたアメリカに戻るのが惜しいです。」

・藤田まこと:「監督は長回しをするのですが、”カット”という度に法廷にいる全員が拍手して、私が下手な英語を話しても拍手をしてくれるのです。監督には”皆が全力でやってOKなのだ、英語がOKな訳じゃない”と言われましたが(笑)」

Q:小泉監督からは、どのような演技指導をしたのですか?
・小泉尭史監督:「僕は何も指導はしていません。皆が自然にできる環境ができればいいと思っています。僕は毎日、藤田さん演じる岡田中将が現場で見れるのが楽しみでした。」

・藤田まこと:「撮影が進むにつれ、どんどん岡田のテンションが上がっていくのですが、原爆を落とせと言ったのを誰だか知っているか?と裁判で聞かれて、大統領の写真のアップが映されて”知らない”と言うシーンがあるのです。もし岡田が、大統領ではないかと言ったら、処刑したのは天皇の命令じゃないかと言われるのではないかと考えるところで、これは外してはいけないシーンだと思いました。
何も指示してないとおっしゃられましたが、監督には目で睨み付けられました(笑)」

Q:監督の現場を体験してみていかがでしたか?
・富司純子:「監督は凄く優しくて、スタッフを本当に信頼しています。クランクインしても、特に演技指導を受けませんでした。スタジオには3カメが回っていて、ずっと見られているようで気が抜けませんでした。監督の鋭い目がいい緊張感を生んで、それが何よりの演技指導でした。」

・原正人プロデューサー:「初めにラッシュを観た時、”本望である”というセリフのシーンの富さんの表情に涙しましたが、今日観てまた泣いてしまいました。思わず手紙でも、”この映画の本当の主役はあなたです”と書いてしまいました。観る度に熱いものが込み上げてくるという、表情だけでそこまで見せる事ができる富さんの凄さを感じました。」

・フレッド・マックイーン:「バーネット主任として、岡田さんを吊り首にしたいという役作りを一生懸命するのですが、富さんを見るとその気持ちが揺らいでしまうので、振り返るのをやめたほどです。
信じられないくらいアップダウンの激しい役でした。バーネットという男の資料を色々探したけれど何も見つからなかったのですが、しかし彼と同じぐらいの思いをしたのではないかと思います。
許すことはできないけれど、吊り首にもできないという気持ちです。この映画の中には、いくつものラブストーリーがありますが、バーネットもそれを感じたという事を忘れないで欲しいです。」

(池田祐里枝)