カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で作品賞を受賞『カリフォルニア・ドリーミン(endless)』。
毎年注目されているアジアの風。今年は、秀作も多く、さらにワールドシネマも加わり世界中の作品を観ることができる。その中で、今年のカンヌ映画祭で話題になったルーマニア映画『カリフォルニア・ドリーミン(endless)』も上映された。
邦題にある“endless”の意味に事務局に聞いてみた。

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今年のカンヌ映画祭を席捲したのはルーマニア映画でした。メインのコンペティションの最高賞であるパルム・ドールと、「ある視点」部門の作品賞の双方をルーマニア映画が受賞しています。フランスの一般紙も「ルーマニア映画の復権」のような特集で取り上げていましたが、要は政治的背景が改善されたことで映画人が育つ余地が生まれ、それが現在開花しつつある状況のようです。そのような状況の中で育ってきた監督の一人が、『カリフォルニア・ドリーミン』のクリスチャン・ネメスク監督だったわけです。

彼は数本の短編でカンヌなどの映画祭で注目され、今回は満を持しての長編デビュー作となりました。長編を撮れる喜びに満ちたような、短編で持て余したエネルギーを全て注ぎ込んだような、とてつもないパワーを発散する堂々たる処女作です。スケールの大きい物語設定、大胆な人物造形、人間心理に対する深い読み、臨場感溢れる手持ちカメラ、そしてカオスの果てに唖然とするラスト。圧倒的腕力を持つ新人の登場といわざるを得ません。

しかし、惜しむらくは少し長い。素人の目でも、ここは少し切れるのではないか?とか、全体をあと20分は短縮できるのではないか?と思ってしまいます。それぞれの描写が過剰であり、もう少しコンパクトにまとめても全体のエネルギーを損なうことは無かったのではないかと考える人がいても無理もないと感じます。

実は、ネメスク監督は、この作品の編集作業中、事故で亡くなってしまいました。編集室からの帰り道だったそうです。この映画の編集は、終わっていません。監督がどのような最終形を描いていたか、知ることは出来ません。残されたスタッフは、自分たちで手を加えることはせず、監督が最後に触れた編集バージョンを完成形とし、そして「未完」の思いを込めて副題に「endless」と付けたのです。

世界はもう、この驚くべく才能を持った監督の新作を見ることが出来ません。監督にとっては、処女作であると同時に遺作であり、我々にとっては発見と同時に喪失であります。これを無念と呼ばずして、何を無念と呼ぶでしょうか。粗さを残す編集を含めて全てが、この作品を形作っているのです。カンヌ映画祭はその無念に泣きました。日本人にもこの無念を共有してもらいたい。そして、余りにも早く逝ってしまった天才の記憶を脳裏にとどめておきたいと思うばかりです。
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このような話題作、一般公開されると嬉しい。

(Report:Yasuhiro Togawa)