日本が誇る故・黒澤明監督の功績を称え、数々の活躍をしてきた映画人に贈る賞として2004年に創設された黒澤明賞。第1回目の受賞者はスティーブン・スピルバーグ監督と山田洋次監督、第2回目はホウ・シャオシェン監督、第3回目の昨年はミロス・フォアマン監督と市川崑監督、そして第4回目の今年は、ロード・デヴィッド・パットナム男爵に決定いたしました。本日27日(土)、Bunkamura(渋谷)にて受賞記者会見を行いました。

デヴィッド・パットナム男爵は、黒澤賞受賞の感想を「40年前に初めて日本に来てから、日本に高い関わりを持ってきたことが評価されたのだと思います。尊敬する黒澤監督の名前のついた賞に選ばれて、とてもドキドキしている。黒澤さんと会ったときは、第2回東京国際映画祭のゼネラルプロデューサーである石田さんが亡くなった時で、思わず持っていたハンカチを取り出し、通りがかった女性の口紅を借りて『サインをして下さい』とお願いしました。そうすると黒澤監督はハンカチに絵も描いてくれて、そのハンカチは“クロサワハンカチ”と呼び、家宝として大切に保管してあります」と語り、教育に専念するために映画界を引退した経歴をふまえ現在の映画界へのメッセージを贈った。

「私が映画界を引退した理由のひとつは、当時映画界の進んでいる方向性に疑問を持っていて、それを覆すようなリーダーも見当たらなかったからです。でも、ここ最近『グッドナイト&グッドラック』、『硫黄島からの手紙』などの素晴らしい作品がたくさん作られ、自分の考えが間違っていたことを知りました。
人は時に『たかが映画じゃないか』と言うけれど、私は映画とはただ単に人を楽しませたり笑わせるだけのものではなく、人に信念や価値観、エネルギーを生み出して育てる大きな力を持っているものだと信じていますし、私も実際に映画に育てられてきました。私はイギリスで作られた映画はほとんど全てを観ていますが、残念ながら最近の映画人は怠けているように思います。とはいえ、私は楽観的なので、近い将来必ず良い映画が出てくることを信じています。また、私が今最も望んでいることは、現在活躍している人たちが若い世代へと、そのヴィジョンや、勇気、知性を伝えてほしいということです」

<デヴィッド・パットナム男爵 (クイーンズゲイト男爵パットナム卿C.B.E., 英国ユニセフ協会会長)>
ロンドンのシティ・アンド・ギルドの夜間部で学業を終え、広告業界での10年を経て、独立系の映画プロデューサーとして30年にわたって活躍。手がけた受賞作品には『ミッション』(86)『キリング・フィールド』(84)『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』(83)『炎のランナー』(81)『ミッドナイト・エクスプレス』(78)『ダウンタウン物語』(76)そして『メンフィス・ベル』(90)など多数。1986年から88年にかけてコロンビア・ピクチャーズの会長兼最高経営責任者を務め、ハリウッドのスタジオの経営者としては唯一の非米国人となった。教育の仕事に専念するため88年に映画製作の仕事を引退。02年7月に英国ユニセフ協会の会長に就任、また07年4月には気候変動法案に関する合同議会精査委員会の会長に任命された。