ジミー・ミリキタニさん熱唱『ミリキタニの猫』舞台挨拶
NYのソーホーで絵を売りながら生活するホームレスであった日系アメリカ人のミリキタニさんの軌跡を追ったドキュメンタリー映画、『ミリキタニの猫』の舞台挨拶が、14日、ヤクルトホールで行なわれた。来場したのは、リンダ・リッテンドーフ監督と、今回奇跡的に来日が実現したジミー・ミリキタニさん本人。監督は、今回の来日で、ミリキタニさんと共にミリキタニさんの生まれ故郷である広島を訪れ、平和の式典に参加したという。
会場には、ミリキタニさんと同じ時期にニューヨークで4ヶ月ほどホームレスをしていたと言う男性も現れ、ミリキタニさんとの当時の思い出や、ミリキタニさんの元気な姿がスクリーンで見ることができたことの喜びなどを語った。
以下、観客からの質問
Q.ジミーさんと一緒に暮らしていたリンダ監督にとってのジミーさんは?
「ジミーさんは私の“おじいさん”(日本語で)です。ジミーさんもわたしのことを孫娘だと周りの人に紹介してくれます。私のおじいさんは二人とも私が生まれる前に亡くなっていました。でもいまは日本人のおじいさんがいます。」
Q.赤の他人であるジミーさんをおうちに呼ぼうと思えたのはどうしてですか?
アメリカ人の人はよくそういった(ホームレスの人を自宅に住まわせてあげるような)ことをするのでしょうか?
「人間のなかには誰しも、いいことをする容量のようなものがあると思います。
私の場合、ジミーさんのことを9.11が起こる頃までにはよく知っていました。9ヶ月間ほぼ毎日路上に彼に会いに行っていましたからね。9.11を境にすべてが変わってしまいました。戦争とか、恐怖とか、憎悪とかそういったものばかりが話題にのぼっていました。そんななかで、私は何か、ポジティブなことをする必要があったんです。人間の精神や魂といったものは、もっと善いことができることを示したかったんです。ジミーさんが私と一緒に暮らしていたことは、私にとって大きな助けになりました。まだ世の中には、善いことがあるんだと思えました。」
Q.ジミーさんが社会保障の受け取りを頑なに拒否する中で、ジミーさんのために尽力した監督の思いはどんなものでしたか?
「ジミーさんはわたしのことを、タフ・ウーマン、タフな女性だと言いますが、多分彼は正しいのかもしれません。物事には時間がかかる場合というのがあります。そういった意味では、私は忍耐強いのかもしれないですね。60年という長い歳月になされたことの修復をしなければならなかったので、そのような長年の不信感を信頼に変えていくにはそれだけ時間が必要だったということだと思います。」
Q.そもそも何故この映画を撮ろうと思ったのですか?監督の仰っていたポジティブなことをしたいという思いが映画作りの根底にあったのでしょうか?
「この映画は非常に有機的なかたちで出来上がりました。ジミーさんに初めてお会いしたのは2001年の冬でした。とても寒い日で、ジミーさんは外で猫の絵を描いていました。私は興味を抱くと同時に、心配な気持ちもありました。そして、ジミーさんに話し掛けてみたのです。ジミーさんがカメラで写真を撮ってくれというので、次の日カメラではなくビデオを持ってジミーさんのところに行きました。するとジミーさんはビデオの前で、絵のことなどいろいろ話しはじめたので、毎日ビデオを持ってジミーさんを尋ねていきました。ビデオがあると彼は話をしてくれたのです。最初はビデオはジミーさんのことをもっと知るための道具でした。それから9.11が起こり、ストーリーは変わっていきました。もともと私自身出演するつもりもなかったのですが、物事というのは変化して、思いもよらない方向に進んでいくものです。
また、ジミーさんの平和とアートに対する貢献にはとても感心しました。」
ジミーさんは、アメリカのメインストリームには登場しない歴史というものを目にみえるかたちで残したいという気持ちがあり、私はその想いに心動かされました。ですから、この映画がそんなジミーさんの想いの延長になればと思います。」
Q.ジミーさんはどんな風にご自分の収容所にいた時代の記憶を語り始めたのでしょうか?また、ジミーさんのなかで、アメリカに対する思いの変化などはあるのでしょうか?
「ジミーさんは絵を描くことで、収容所での思い出について語っていました。ジミーさんが描いた絵を見せてくれて、私はジミーさんの絵を通して、収容所のことを知りました。
ジミーさんは今87歳で、映画に出てきたアパートに自分の猫とくらしています。彼の誕生日は6月15日なのですが、毎年バースデイ・パーティを開いています。」
ここで、赤いジャケットを着て赤い帽子をかぶったジミーさん本人が登場。会場には割れんばかりの拍手が鳴り響いた。ジミーさんは共に収容所にいたというハラさんの歌を、手振りをくわえながら元気なよく通る声で熱唱し、健在ぶりを手拍子をうちながら聞き入る観客にみせた。歌が終わるとジミーさんは花束を受け取り、自身の猫の絵を持って笑顔でフォト・セッションを行い、観客に手を振りながら監督と共に会場を後にした。
(Report:Akiko I)