TVドラマ「時効警察」シリーズや『亀は意外と速く泳ぐ』や現在公開中の『図鑑に載ってない虫』などその独特な“笑い”といい意味での“ゆるさ”で幅ひろい支持を集めている三木聡監督の最新作『転々』。完成披露試写には、三木聡監督、主演のオダギリジョー、小泉今日子、吉高由里子、三浦友和が登場し舞台挨拶をおこなった。
『イン・ザ・プール』で出会い「時効警察」でのタッグでもおなじみのオダギリジョーを主演に迎え、うだつのあがらない大学生が借金返済のため、借金とり・福原の提案で、男2人でなぜか東京の名所や思い出の地を散歩することになるという一風変わったストーリーは、直木賞作家・藤田宜永の同名小説が原作になっている。

「借金とりの男が大学生と散歩して、やがて自首しにいくというプロットが可笑しいな、これは小ネタいっぱい入れられるなって思いながら読んでました。特殊な監督なのである程度の自由は欲しいんですけど、登場人物たちがすごく魅力的だった。だいぶ変わっているかもしれないけど、原作のスピリットは変わっていないと思います。」と三木監督。
会場には今日はじめて完成版を見るという原作者・藤田宜永の姿も。映画化にあたっては原作を「嫁をだすつもりで」提供したのだという。
「愛娘なので、あまり手荒にあつかうな、という意味をこめて(笑)。今日はじめて見るのでとても楽しみです。ロケ現場を少し見ましたがすごくいい感じでした。どんな映画になっているのかワクワクしてます。原作の方も読んでください」とアピール。
また、三木との3度目のコラボレーションとなるオダギリは、
「三木監督はきびしくて真面目なんです。今回の作品では、三浦さんと2人で散歩している前半と、小泉さんたちが出てきて擬似家族のようなことを演じる後半でまったく別の映画に出演している気分でした。」と語る。
『茶の味』(石井克人監督)や『松ヶ根乱射事件』(山下敦弘監督)などクセのある若手監督の作品に積極的に参加している三浦友和。三木作品も『亀は意外と速く泳ぐ』を劇場で鑑賞するほどのファンだという。借金取り福原というこれまでの印象をガラッと変える役柄を魅力的に演じている。
「最近変な役が多いんですよ。本質を見抜かれているのかな?役作りは監督と相談しながらでした。現場はゆったりとしているんだけど、でも緊張感がある。ゆったりしてて気が抜けない感じ」と三木の現場を評した。
また福原のニセモノの妻役という不思議な設定の女を演じた小泉今日子も三木の現場をこう語る。
「(独特の間による自然な会話など)すべてシナリオにあるものをきちんと演じているんです。だから細かい部分まで気が抜けないんですよね。大らかな雰囲気と細部のこだわりが同居してて、またその細かいこだわりを求められることがイヤに感じないんですよ(笑)。」
『紀子の食卓』(園子温監督)で映画デビューし、ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞し今後が期待されている吉高由里子は、小泉のエキセントリックな姪っ子役。ハイテンションにつっぱしるキャラクターをキュートに演じた。
「素敵な映画になってうれしいです。公開されるのがすごく楽しみ。オダギリさん、小泉さん、三浦さん、三木監督みなさんに出会えたことがうれしかったです。面白い方たちばかりで、現場では笑わせてもらってばかりでした。セリフの相談しても監督がそのセリフを面白くいってしまうのでまた可笑しかったです」と笑顔が絶えない現場の様子を語った。

行動をともにするうちに、いつしか父親に似た感情を福原に抱くようになる主人公との関係を、センチメンタルに寄りすぎずさらっと描きながら、変わりゆく街の風景に切なさをにじませて、まるで世界の手触りを確かめるようにささやかな旅する男2人の道行きを描いた『転々』。画面の端々にまでちょっとした笑いをつめこむ三木節の小ネタはもちろん、アメリカン・ニューシネマの匂いを感じさせる今作は、また新しい三木聡の一面ともいえる作品となっている。

(Report:綿野かおり)