アルコールに溺れ自堕落な生活を送る主人公・ジルの混乱する記憶を描き、見るものをかく乱させる巧みな演出でホラーとスリラーの間を揺れ動く独特の作品世界を作り上げたのは27歳のフィリピンの新鋭監督レナト M. バウティスタ。

長編2作目となる本作『ブラックアウト』は光と影を巧みに使ったシャープな演出が特徴的。
「シナリオを書く前から照明は独自のものを作りたいと考えてました。『リング』や三池崇史監督の『オーディション』など日本映画の自然な光のコントラストを参考にしてフィリピンらしさも出したかった。茶色とグレーを色の中心にしてそれ以外の色はおかないようにしました。でも冷たい感じにはしたくなかったので、赤茶色を効果的に使うように気をつけました。」
主人公の精神的な混乱を軸に描くストーリーに関してはヒッチコックやM・ナイト・シャマランを参考にしているという。
「フィリピンでは今ホラー映画が人気で、ハリウッドでも日本のホラー映画を輸入していますよね。今回プロデューサーからの依頼でホラーを作ることになったんですが、単なるホラーものにはしたくなかったんです。幽霊が出ていても、それは主人公の幻覚というふうにも取れますし、もっと精神的なものを盛り込んだサイコロジカルなものにしたかったんです。」
また脚本を担当したシューゴ・プライコとは強い信頼関係を築いている映画制作の盟友だとも語る。
「ストーリーのアイデアはまず私が考えてそれをシューゴに話して二人でさらにアイデアだしをします。全体の構成は私がすべて決めるんですが、シューゴが書き上げてくれるシナリオはいつも私の思っていた以上のものが出来上がってくるんです。
今回はプロデューサーの気が変わらないうちに作りたかったので急いでシナリオを作って、一週間で書き上げてもらいました。パソコンがクラッシュしてしまいデータを失ってしまったんですが、諦めずに2日間で書き直し、もとのシナリオよりさらに良いものが出来上がったと思います。」
また、いたずらに大音量で恐怖をあおるのではなく計算された音楽の演出もまた印象的だ。
「音楽は大学時代の友人で短編映画の音楽を担当してもらっていて、7年以上前からの古い付き合いです。企画段階からメインテーマだけは彼がすでに作っていて、スタッフみんなはそれを聞いてもらっていたので作品のムードだけははじめからつかんでいました。音楽の演出は、怖がらせたい時には低周波の曲を入れ不穏な感じを出し、混乱させたいシーンには高周波の音響を入れています。」
質問に対して非常に雄弁に語る姿は、フィリピンの映画文化を背負う新鋭として力強く、今後の活躍に期待ができる作家の登場を充分に予感させた。

(Report:綿野かおり)

★『ブラックアウト』は7月21日(土)にも上映があります!