よりよい人生を送るため、故郷を遠く離れイスラエルへやってきたフィリピン人たち。普段は年老いたユダヤ人介護を行い、週末はドラァグクイーンのグループとして活動する彼らを追ったドキュメンタリー『ペーパー・ドールズ』が長編コンペ作品として上映され、トメル・ヘイマン監督がQ&Aを行なった。

イスラエル社会ではフィリピン、中国、タイからやってくる外国人労働者を多く目にするようになってきているが、彼らが何をする人なのかは今まであまり明らかにされていなかった。その彼らの中でもある種特殊なトランスセクシュアルの人々が敬虔なユダヤ教信者を介護しているという普段はありえない出会いを、また、イスラエルの歴史上初めて描かれたユダヤ教の聖なる空間での撮影、さらに、テロなど一般的な場面も出てくるなど、イスラエル人にとっても興味深い一本だ。

撮影を始めてから終了するまでの6、7年間の間で大きな変化があったという。なぜこの作品に取り組んだのか?
「まず、皆さんにお伝えしたいのは、私は他のイスラエル人と同じように、路上でよく見るあの人々のことを、普通の同じような人間として見てこなかった。ですから映画をつくるときに、恥ずかしいような後ろめたいような気持ちがありました。いわゆる日陰にいるような人々に同じ人生があるとは考えもしなかったのです。」と打ち明けた。「外国人労働者との偶然の出会いから始まり、ペーパー・ドールズが人生の友人として近づくにつれ、価値観がどんどん変わっていきました。出会いによって視点が変わったことが私の財産です。実際の変化の例として、ショウが行われた時に爆発音がありました。それはテロでしたが、彼らは“テロがあるときにショーなんかやっていられない”と、対照的にイスラエル人たちは“日常的なことだからやめることはない。”と言った。今から考えると、イスラエル人は日常の中で、あまりに人間の死に直面することに慣れすぎていていることを、彼らのナイーブさを目の当たりにしたことで、ハッと気付かされました。もう一つの高齢者介護の問題について、私の母親は彼女自身の父、母の介護をして看取った。自分の周囲を見ていると、家族の中から老人介護の問題が家族の外に転嫁していることをペーパー・ドールズとの出会いによって学ぶことができた。おそらく世界全体で抱えているであろう問題を、映画を通じて出せればと思いました。メディアは簡潔化してしまいがちだが、現実はもっと複雑であるということも分かってもらいたかったのです。」

Q:イスラエルにおける介護師の状況と、外国人がヘブライ語を学ぶ状況について
A:外国人はイスラエルに来る前はヘブライ語を勉強していません。彼らは独学で勉強しています。サリーの場合は特異な例で、介護していた知識人のハイムから学ぶことが多かった。老人介護に関わっている90%がフィリピン人からの人で、男女の比率は同じくらいで極端にどちらかが多いということはありません。

『ペーパー・ドールズ』は7月21日(土)14:00にも上映があり、トメル・ヘイマン監督がQ&Aを行なう予定です。

(Report:Miwako NIBE)