「この映画に出るために1週間の早起きを命じられました」、ヤングコンペ作品『シチズン・ドッグ』の主演俳優、マハーサムット・ブンヤラックは言う。監督のウィシット・サーサナティアン(『怪盗ブラック・タイガー』)から熱烈なオファーを受けたにも関わらず、ブンヤラックは寝坊して3度も約束をキャンセル。製作会社をなだめるため、監督は彼に早朝6時の公園ジョギング、遅刻したら出演取り消しを命じたのだった。ブンヤラックが無遅刻だったのはこの場にいることでわかるとおり。色鮮やかでキュート、ブラックだけどファンシーな本作でシャイで朴訥、恋に一途な青年を好演した。ちなみに実物の彼もかなりの照れ屋さん。ちょっと恥ずかしそうに、だけど真摯に答えてくれた単独インタビュー。彼の名誉のために断っておくと遅刻はもちろんなし。インタビュアーが到着するや、既に取材部屋にいたのでした。
(取材:terashima)

ーー本業はミュージシャン。本作で俳優デビューしましたが、そのきっかけは?
ずっと音楽をやってきたんですけど、ラジオ局にオリジナルの曲を送ったらそれが採用された。そのことで少しだけみんなに知ってもらえるようになったんです。監督から連絡があったのもそういう露出がきっかけ。ある日、映画に出てみないかと連絡があって・・・・・・。

——ウィシット・サーサナティアン監督のファンだったそうですが。
いきなり、連絡があって驚いたのでは?

それはもう。でも、当初はあまり、やりたくなかった(笑)。というのも、その頃の僕は音楽の方が忙しくて徹夜続き。朝は起きられない、曜日もわからない、そんな生活。実は監督との約束も3度もすっぽかしてしまったんです。
約束をやっと守ることができ、監督と会えた時、僕は映画に出る気まんまんになっていた。だけど、スタッフがいい顔をしなかった。そう思われて当然ですよね。周囲は監督に「やめたほうがいい、撮影中、やつは絶対遅刻するぞ」って(笑)。今度は僕がお願いする番でしたね。「遅刻はしません、やりたい、やらせてください」って。で、監督は言ったんです。「毎朝6時に公園に来い。1週間連続で。その間、5分でも遅刻したらこの話はナシだ」って。1週間、僕は遅刻せずに行きました。ただ、早起きしたんじゃなくて朝まで起きてたんです(笑)。徹夜のまま朝6時に公園に行って、監督とジョギングして、家に帰ってそれから寝ました。

——3ヶ月の撮影中は無遅刻だったとか。ところで、あなたが映画初出演なら相手役の女優も初出演。そんな中、キスシーンがあったりと大変だったでしょう。
いや、まぁ・・・・・・その・・・・・・、まぁ、そうですね(笑)。何回か演技指導のレッスンを受けたんですけどキスシーンのコツは「相手を透明な存在に思え」と。で、本番の時はワン、ツー、スリーと心で唱えました。あのシーンの撮影中、隣で工事現場のドリル音がなり響き、ロマンティックなムードとはかけ離れたものだったんですけどね。
もっときつかったのは舐め男に顔を舐められるシーン。あれは耐えられなかった。あれをやられると演技がどうしてもできなくなった。結果的に何度も撮りなおし。テイクを重ねるごとに舐めがひどくなっていった(笑)。

——朴訥した印象のポッドとあなた自身のイメージは重なります。実際にジンのような女性がいたら好きになりますか?
うーん。・・・・・・、ジンを演じた女優も割と不思議ちゃんタイプの女性なんですけど。ジンはどうかなぁ・・・・・・。好きと嫌いの背中合わせという感じですかね。というのは、ジンはポットを苦しめることもある。ああいうのはやっぱりつらいですしね。

——劇中のような一途の恋愛は?経験ありますか?
うーん・・・・・・(やけに照れてしばし沈黙)。わからないなぁ。それほど・・・・・・、あれほどの恋愛は経験したことはないかなぁ。音楽に熱中してきたので、恋愛はどうも・・・・・・。

——率直に言って俳優の経験は、面白かった?それとももうやりたくないと?
  すごく面白い経験だった。もっと演技の勉強をしたいと思いますね。それに、いつかは映画を自分で撮ってもみたい。実はロンドンにある映画学校に通っていたことがあるんです。それは音響とか、映画音楽関係の課程だったんですけど。

——学校時代の友人はあなたが映画に出たことを?
うーん・・・・・・、知らないんじゃないかな。日本人の友人もいたけれど、彼が今どこにいるかはわからないし・・・・・・。

——じゃあ、映画を見たらびっくりしますね。
 びっくりするでしょうね。映画学校の先生なんかも驚くだろうなぁ・・・・・・。

——本編の劇中にはブンヤラックさんオリジナルの曲も使われています。監督からはどのような注文が?
当初はヒロイン、ジンのための曲をと言われました。彼女が希望をなくし、やる気を失ってしまった場面で使える曲をと。だけど、編集してつないで見たら、その場面よりも僕がジンを探し歩くシーンの方がしっくりきたらしいんですね。

——自分の芝居のバックに自分の曲が使われる・・・・・・。映像を見たときの気分は?
すごく・・・・・・、幸せですねぇ。本当に本当にうれしい。いつか、もし、僕がミュージッククリップを作るとしたら、あの場面をそのまま使いたいと思っています。