『陶器人形』は中国では珍しいサイコホラーである。主演の一人を伊藤歩が演じるとあって、撮影当時から日本のマスコミでも話題になっていた。「日本のホラーと中国のホラーとを融合したかった」、監督のツァン・ジャーベーは流暢な日本語で語る。日本の映画監督に師事し、04年には日本映画『歌舞伎町案内人』で監督デビュー。『陶器人形』はそんなジャーべーが本国に戻って撮った初作品でもある。中国での公開は今春。日本でのお披露目は夕張が初。在日生活は長いが、夕張も初めてだという。「東京とは違う、町の温かみがうれしいですね」。(取材・TERASHIMA)

——中国ホラーは珍しいと思いますが、製作のきっかけを。
プロデューサーのリー・ウェンリァンと一緒にやりたいねって言ってました。で、今、中国ではホラーが人気なんですね。中国ホラーっていうジャンルはまだ新しいし、これを日本のホラーのスタイルとうまく融合できれば面白いものになるのではないかと。それをどう見せるか企画から考えていくことになったんです。

——中国映画では幽霊を見せてはいけない、社会的、政治的背景からそういう規制があるそうですね。
そうです。ホラーはかまわないけど幽霊は出せない。そうなると妄想か夢しかないんです。僕としては題材がホラーでも何かしらメッセージを込めたかった。今の中国社会は富裕層が増えたけれど、かつてのような精神的な豊かさが消えつつあります。劇中にまねき猫が登場しますが、それを触ろうと人々は川に飛び込む。招き猫を触るとお金持ちになれるといわれています。お金のためなら何でもする、あの場面は現代人の欲望の象徴なんです。

——伊藤歩さんを起用した理由は?
全世界に発信したい、とりわけ日本の観客に見てもらいたいというのが前提にありました。そのためには日本のスターが必要で、2人のヒロインのどちらかは日本の女優を使おうと思っていた。日本でオーディションをやったんですけど、そのなかでも伊藤さんはキャラクターの雰囲気にぴったりだった。彼女のことは岩井俊二作品で知っていましたし、実際、素晴らしい女優ですしね。現場でもスタッフと仲良くやっていましたよ。

——劇中では4人の人間のもとへ、それぞれ形の違う不気味な陶器人形が届きます。これらの意味は?
中国のことわざに倣っています。一つ目は口から血を流している人形ですね。これは人の悪口を言う人間のこと。2つ目は目だけの陶器人形。欲深い人間の意味です。3つ目は大きな耳の陶器人形。人の噂話にばかり耳を傾ける人間です。そして、4つ目が顔のない真っ黒な人形。人間味がない、感情を持たない人のことです。それぞれ登場人物のキャラクターを象徴したものでもあります。ちなみにあの人形は専門家に作ってもらったのですが、デザインは僕が描いています。

——新藤兼人監督や今村昇平監督などの助監督をし、監督デビュー作も歌舞伎町を舞台にした『歌舞伎町案内人』。日本の映画業界は長いですよね。今回、中国で製作して日中の違いを感じたことは。
 監督業なら日本の方が楽ですね(笑)。助監督の動きが違います。日本の場合、助監督が撮影の段取りを押さえ小道具などを用意しますが、中国はそれをしても揃わなかったり、指示したものと違ったり、何かがズレる気がします(笑)。
 中国だからできたことは世界遺産になっている黄山でロケができたこと。日本ではまず無理ですね。建物のひとつをロケに使ったのは中国でも初めてだったんですが、交渉の末に実現しました。

——撮影はかなりハードだったそうですね。
 25日間休みなし、しかも夜の撮影がほとんどなので夕方から朝5時くらいにかけてが仕事時間。みんな、疲れていきましたね(笑)。部屋の中で外は雨という設定も多かったんですが、ポンプの音がすごくて付近の住民から文句を言われたこともありました。

——ラストシーンに使う屋敷が撮影前に燃えてしまったとか。
 山奥に作ったセットですね。ラストで全焼する設定なんですが、その準備中に屋敷の上の方が燃えてしまった。あのシーンに登場した伊藤歩さんは翌日には帰国する予定で、時間はもうなかった。結局、急いで消火して建物をその場で修繕し、なんとか大丈夫だったのですが。

——次回作は中国版『楢山節考』ともいえる作品なのだとか。年内クランク・インの予定ですか?
早ければ4月に撮影に入りたいですね。これはホラーではなく、ジャンルでいえば人間ドラマで、知的障害を持った母親の、息子への愛を描いたものになります。チャン・イーモウの『初恋の来た道』の脚本家がシナリオを担当します。母親以外は基本的に素人を採用する予定ですが、母親役は多分、『陶器人形』のミォ・プーになる可能性が高いですね。彼女はうまい女優ですから。