ダウンタウンの松本人志の初監督作品であり、いまだその実体が謎に包まれている映画『大日本人』がなんとフランスのカンヌ国際映画祭で上映された。しかもカンヌ映画祭のなかでも作家性が強い作品を多く紹介し、スパイク・リー、マーチン・スコセッシ、ジム・ジャームッシュ、 ソフィア・コッポラ、大島渚など世界の名立たる巨匠を輩出している「監督週間」での公式上映だ。過去の日本映画でも初監督作品が監督週間に選出された例は少なく(大島 渚監督23作目、北野武監督6作目)、松本監督の作家性や作品の完成度の高さが映画祭に評価されているといえるのかもしれない。

上映が決定した際は「カンヌと言われても正直、まだピンとは来てない。とにかく僕の映画を認めたカンヌは僕も認めます(笑)。あくまでも日本人向けに作ったので、外国の人がどう観るか興味はある。」とコメントしていた松本だが、5月19日の公式上映時には、監督週間のディレクター、オリビエ・ペールに「すばらしいコメディアンによる映画「大日本人」は情熱的で、とてもオリジナルで独創的。オフビートなドキュメンタリータッチのリアリティを追求した作品 です」と紹介された。
囲み取材で上映後の感想を聞かれた松本監督は、
「初めてのことで、こんなに緊張したことはないですね。一番緊張したというより、 今までにない緊張で、次に映画をやってもこんな緊張はないでしょうね。ど真ん中に座ってみるっていうのは緊張します。笑いが起きていたことは嬉しかったです。どうせならいろんな国での反応が見てみたいですね」とコメント。
観客の反応については、「思っていないところで反応があったことには驚きました。“ふえるわかめ”のところは意外に分かるんだなと思いましたね。」と感想をもらし、アメリカよりはヨーロッパかなぁともポツリ。相方の浜ちゃんが観たらなんて言うと想うか?と聞かれると「観ないんじゃないですか?僕も『シュレック』観たことないですから」と笑った。

また、翌日の公式会見では海外メディアからの質問に答えた。
謎につつまれた本編の片鱗がそのやりとりから少しだけ垣間見れるような、余計わからないような、会見でのやりとりは下記になる。

Q なぜ映画を作ろうと思ったのか?
A 映画を壊そうと思いました。誰もやっていないことをやろうと。

Q 政治的な意味は?
A 面白いことを追求するとそこに落ち着いた、ということですね。

Q 笑いの天才と言われていますが、笑いのレベルは?
A 5段階だとすると2です。相当分かりやすくしています

Q 監督週間でこの作品を選んだときに、メランコリーや主人公の悲しみの部分を感じました
A 哀愁、というものがお笑いの中にあると思っていて、胸がキュンとなります。
  人間の面白い部分で笑いを追求すると、外せないです

Q 登場しているキャラクターには、「あきらめ」「やる気がない」ように見えるが、これ は日本の社会を描いているのですか?
A 大佐藤さんの周囲には、あまり大佐藤さんを愛している人がいなくて、日本の社会を 表している部分もあるし、僕自身の立場を表しているともいえます。

Q 映画のアイデアは?
A 基本はテレビの仕事で、その先に何がある?と考えたときに、映画を撮ることにしました

Q 製作の期間は?
A 順撮りしまして、1年間くらいですね

Q とても日本的だと思いました。日本の監督で影響を受けたり、尊敬している監督は いますか?
A 基本的には誰にも影響されていないと思います。もちろん尊敬している監督もいます が、作品が好きであって、その方自身が好きであることはないですね。

Q 舞台挨拶時にいつもと違った松本さんの顔を拝見した気がいたしましたが、 カンヌ映画祭に出品されてみて、カンヌに対する意識の変化はありましたか?
A そうですね、作品に対して自信がある分、緊張も大きかったですね。

Q (1)日本のマスメディアがとても多く、北野武さんの後継者なのではという期待があります。その期待に対してどう思いますか?
(2)政治的メッセージを連想させるシーンもありましたが?
A (1)そうですね、武さんのことを意識していないと言ったら嘘になりますよね。確かに とてもリスペクトしています。でも、それだけに勝ちたいです。
(2)自分が興味があったので、スパイス代わりに入れてみました。

Q いらっしゃる前と後で、カンヌに対する印象は変わりましたか
A 少し欲が出たかもしれないですね。

Q 主人公は才能を持っているが認められていないですよね、自画像的な面があると見受 けられたのですが。
A そのとおりですね(笑)

(Report:綿野かおり)