クラシックの巨匠、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが生涯の集大成として作り上げたオペラ『魔笛』。豊かな娯楽性と華やかな音楽性を備えたオペラ史上の金字塔として知られるこの作品を英国の天才、ケネス・ブラナー監督が映画化。そして、ケネス・ブラナー監督が9年ぶりに来日、都内で記者会見を行った。

モーツァルトの傑作オペラをなぜ今回映画化に?
ーオペラの扉を開いてくれないか?と話しを受けました。ポピュラーで世界で一番公演回数の多い作品ですから、オペラがちょっとでも怖いなと思っている方にも是非見に来て欲しいです。

本格的なオペラ歌手陣の中で、演出で苦労した点はありますか?
ー実は今回のキャストと自分はあるひとつの絆で繋がっていました。それは”恐れ”です。自分にとってオペラの世界に足を踏み入れるのは初めてで、彼らは映画の世界に足を踏み入れるのが初めて。その中で彼らは可能な限り、人間らしい演技が必要でした。特に相手の話しを聞くアクションが必要であると。映画の中の歌は対話であると思っています。そう言った事を大切に演技してもらいました。お互い謙虚な対応でした。だからこそ、誠実な演技が出来たと思います。

戦場でモーツァルトが流れるという設定の中で、曲の持つイメージについてやこのシーンについて流れる曲が最高!というのはありますか?
ーもちろんモーツァルトの偉業と同じ事は不可能だけど、それに合った作品を作ろうとしました。映画であるからこそモーツァルトのスピリットが描けたと思います。序章で映画とオペラの融合でこの作品を作り上げる事が出来たのではないでしょうか?映画でしかなし得ない事が出来たということは嬉しく思います。

パピーノの前半と後半で考えが真逆になる所などは、現代のイラク戦争などをイメージされたのですか?
ー今、こういった質問が出る事が200年経ってもいろんなアピールで描きたいと思わせる作品だからだと思います。この『魔笛』には人が持ってる普遍的なものにスポットをあてている。戦争を解決するという事、愛が憎しみ、簡単に言うと平和が戦争に打ち勝つという事を描いている。モーツァルトが晩年にいろんな考えを込めて書いた作品であるから。自分としてはフォークランド戦争を反映させてるか?と聞かれるが、モーツァルトの作品は今の私たちの生きてる時代を反映してるからこういう質問が出るんだと思うよ。

近年の活躍を見ると俳優業よりも監督業に重きを置いているのですか?
ー確かにこの作品は3年半かかりました。長い時間だったけど、楽しくて毎日モーツァルトを聴けたのは、ご褒美かなと思っているよ。
 ここ3年は毎年作品を撮っている。演技もしたいなと思っていて、今年か来年には舞台に立ちたいと思っているよ。そろそろ両方のバランスをとろうと思う。

監督・俳優のそれぞれ美点はありますか?
ー監督の仕事のときの経験が俳優の仕事の時に役に立つ。監督だけの人は、他の監督の仕事が見たいと言う。自分は俳優たちから学ぶ事も多いし、深い考察が出来ると思う。
素晴らしい監督のもとで学べて、監督する時に役立てる。Sleuth(原題)という作品でマイケル・ケインとジュード・ロウと仕事した。監督が俳優としての洞察力があってありがたいと言ってくれた。監督と俳優、両方やっているのはとても役に立つコンビネーションだと思いますし、両方出来るのはとても幸運だと思います。

もし昔の私みたいにオペラを敬遠している方がいるならリスクをおって観に行って下さい。この『魔笛』は1792年にアシカ・ネラーが初演し、当時人気があり誰もが見たものでした。オペラを現代における親しみ易いエンターテインメントである映画で作りました。友人がモーツァルトなんて全然知らないよって言ってたけど、TVをつけたらCMでパパゲーノが流れてきた。意識してなくても知っていて、心の隅で気に入ってると思う。その友人は、劇場に観に来てくれて、ヘビーでシリアスかと思っていたけれど、こんなに笑って泣くと思わなかった。と言ってくれた。是非皆さんも劇場に観に行って下さい。

(Report:にいざわ あきこ)