漆原友紀の大人気コミックを、日本のアニメを世界に知らしめた大友克洋が実写映画化した『蟲師』。ベネチア国際映画祭では絶賛を受け、現在すでに24個の映画祭からオファーを受けているという本作が3月24日ついに日本で公開を迎える。公開まで2週間をきった3月12日都内にて大友克洋監督、オダギリジョー、蒼井優、大森南朋、プロデューサーによるマスコミ記者会見が行われた。

「自分にはない感覚を持ったこの原作コミックの不思議な世界観を実写化したいと思った」と話す大友監督は、100年程も前の設定の日本を再現するためにかなりのロケハンを重ねた。何度も山を登り降りして探したロケ地は、見事に不思議で不気味な映像を支えている。しかし、それ以上に今回実写化する上で大切だったのは役者の力だったと話す。「アニメと実写の差はやはり役者。彼らの力に頼るしかない。今回僕の中ではキャストがみんなそれぞれの役とだぶっていた。だから、キャストが決まったときはもう映画ができたという感覚でした」

監督のその言葉を受けたキャストたちはそれぞれが演じたキャラクターの魅力について、慎重に真摯に言葉を探しながらこう話す。
「ギンコは、蟲っていう存在を自然と同じもの、人間がどうにかできるものではないことをしっかり認めている。その上で蟲を殺そうとするのではなく抑える、・・・というか、ただ受け入れる。その在り方に共感をもった部分があります」(オダギリジョー)
「虹郎は、一番人間味があった。その地に足が着いたような感じが彼の魅力だと思います」(大森南朋)
「“一所(ひとところ)にしかいれない淡幽、一所(ひとところ)にはいれないギンコ”。演じている最中もずっとこの言葉に惹かれていたような気がします」(蒼井優)

この原作はあまりに不思議な世界観から実写化不可能と言われていた作品だった。しかし、日本アニメ界の巨匠・大友監督は、その世界を見事に再現した。例えばゲージがあったとして片方の端が実写の世界、もう一方の端がCGやアニメの世界だとすれば大友監督はそのまさに中間、実写とCGの世界の融合をこの『蟲師』でやってのけている。普通に考えればありえないような出来事が、この映画の世界の中では自然に起こっていることだと信じ込んでしまう。しかし、CGがまだないところで演じる俳優にとっては難易度がかなり高い演技だったはずだ。その“見えないもの”との共演を助けたのが、大友監督の緻密な絵コンテである。「監督が事前に配ってくれた絵コンテは、みんなでもってる地図のような感じでした。みんなでそれに向っていってる感じ。その地図が頼もしかった」(蒼井優)

こうして完成した映画『蟲師』の魅力を、蒼井優はこう語る。「この世界を、観たこともないのに懐かしかった。そういう独特な魅力があります。撮影している間はこの世界を理解していると思っていたんですが、撮影から長い間離れて久しぶりに『蟲師』の世界を見るとところどころ感覚的に見ているところがあって。わからない部分があった。でも何度も観ていくうちに、この世界に一歩ずつ足をひかれていくんです」
(林田健二)