月刊IKKI連載中の松本次郎の原作を、『青春☆金属バット』の熊切和嘉監督が映画化した『フリージア』。敵討ち法が成立した近未来日本を舞台に、松本次郎のカオスな世界と、熊切監督の人間に対する美学が見事ブレンドされた本作。2月3日、渋谷アミューズCQNにて公開初日を迎え、熊切監督、玉山鉄二、つぐみの3人が舞台挨拶を行った。

 ある生体実験をきっかけに、感情も、感覚もなくしたヒロシ(玉山鉄二)とヒグチ(つぐみ)。「周りの物事が、自分の中に入ってこない」と、ヒロシという人間について話した玉山とつぐみは、無感情の人間を演じた撮影中の苦しみを語った。
 「現場は本当に辛い日々でした。毎日の楽しみをどこにもっていけばいいのかがわからなかった。クランクアップするまで共演者とも全く話すことができなかったんです」(玉山鉄二)
 「感情がない役を演じたことで、どんどん自分が情緒不安定になっていくのがわかりました。演技というものがこんなに難しいものだと改めて実感しました」(つぐみ)

 時代は敵討ち法が成立した近未来。復讐が認められるこの法律について
 「もし自分の大事な人が殺されたとしたら、自分はやり返したいと思います。幼いときから親父が、”子供に何かあったら必ず仕返してやる”って言ってたのが大きいと思います」(玉山鉄二)
 「この映画のお話を聞いたとき、敵討ち法の是非について聞かれました。そのとき、私は即答で、大賛成!と言ったんです。でも、撮影の間に人一人の命の重さとか、そういったことを考えるようになって、迷いが生じてきたんです。まだ答えは出ていません」(つぐみ)
 「僕も感情的には仕返ししたい気持ちはあります。でも法律自体には反対です」(熊切監督)と、それぞれ独自の考えを話した。

 無感情、敵討ち法・・・。これほど奇抜な世界観を持つ本作であるが、その中心にあるのはヒロシとヒグチ、そしてトシオ(西島秀俊)をめぐる人間ドラマである。無感情の中で生まれた切ない物語が映画『フリージア』なのだ。
 「僕はトシオとの対決のシーンが見所だと思うんですが、男同士の対決の潔さがこの映画には描かれているんです」(玉山鉄二)
 「ヒロシと病院にいるシーン。あのとき、私自身の気持ちが揺らいだことを、今、鮮明に思い出せるんです」(つぐみ) 
(林田健二)