12月12日は間章の命日であり、小津安二郎の命日で誕生日でもある。そしてこの日に初日を迎えたのが『AA 音楽批評家・間章』。青山真治監督が約5年の歳月をかけ完成させた第六章からなるドキュメンタリーだ。この思い入れの深い日に新作『SAD VACATION サッド・ヴァケイション』九州ロケを終えたばかりの青山監督が会場へ駆けつけた。

音楽界に大きな影響を与え32歳という若さでこの世を去った音楽批評家、間章。彼はフリー・ジャズ、プログレッシブ・ロックなどを積極に日本に紹介し、ミュージシャンとともに新しい音楽に挑戦していった。彼の批評や運動、70年代とは何だったのか?文学的かつ哲学的な音楽批評の軌跡と彼が生きた時代とを、ゆかりのあるミュージシャン、批評家の証言によって映像化を試みた野心作である。

12月12日という日付をめぐって、間章、小津安二郎だけでなく、数年前に亡くなられた日本の偉大な脚本家・笠原和夫、詩人のロバート・ブラウニング。誕生日では、フランス人作家ギュスターヴ・フロベール、ポルトガルの現役世界最長老監督マヌエール・デ・オリベーラといった錚々たる顔ぶれが並ぶ。「そこに間章が一緒にふっといるのが似合う日でもある。そういう絵柄が僕にとってはいい感じでいてくれているなという気がする。12月12日が必ずしも間章を特権化するわけでもない、間章によって12月12日が特権化されるわけでもない。なんとなく曖昧な中にこの日付と間章の関係があり、そして今日の初日があるっていうことが僕にとても象徴的なことだったりするんですね」と語る。
「この作品には間章という人は名前のみ出てきて、文章も肖像も出てきません。ですからイメージが不在のまま7時間半の上映時間を過ごしてしまう。それがこの作品の中心となる。12月12日をめぐる周囲との曖昧さとこの映画の関係だと思っています。曖昧さとは何か、一種の野外実習、大きな公園に出て行って、カエルそのものではなく、カエルの卵やカマキリの卵を見つけるような作業として見て頂ければ本望ではないか、単なるマテリアルがどこかに転がっていて、それを摘み取る。あるいは見るだけ、つまみ上げるだけで終わる、そういう空間が『AA』という7時間半の上映であればいいなと考えております。」

この作品は映画美学校、青山ゼミで青山監督以外は全員学生という状態で製作したという。「間章という方が山だとしたら、山に登っていく、あるいは洞窟を掘って金や銀を発掘していく過程でもあったわけです。余計な砂を落として金だけを集めて、この作品の全体を作り上げたそんな感じもあるんです。ですからこれは先ほど言ったような『AA』という名の公園であり、鉱山であるというのが、作り上げた後の実感でした。皆さんがどうご覧になるか見当もつかないんですけど、じっくり見つめ直すためには一冊の本があります。『間章クロニクル Aida Aquirax Chronicle』(愛育社刊)、この中に本当は何が語られていたか、ひとつのヒントを与えてくれるはずなんで、お手に取っていただけるとありがたいです。」
(M.NIBE)