ヴェネチア国際映画祭で正式招待作品として上映され、大絶賛された”世界のクロサワ”監督作品『叫』。誰もが待ち望んでいた本作が遂に完成!都内で黒沢監督による舞台挨拶が行なわれ、『叫』について話を聞かせてくれた。

主人公は刑事・吉岡(役所広司)。東京の湾岸地域で起こる連続殺人事件について調べていくうちに、吉岡は突然不気味な声に取り憑かれるようになってしまう。声を発しては何かを訴えてくる赤い服を着た女(葉月里緒奈)に、やがて「あなただけ許します」という言葉をもらうが…。果たして女は一体誰なのか、そして何を伝えたいのか。吉岡は過去と現在を彷徨い、知らぬうちに謎に足を踏み入れていく…

謎が謎を呼ぶ、まさに黒沢映画の新作に相応しい出来栄えの本作。もちろんこの映画に出てくる赤い服を着た女はとても恐ろしいのだが、本作を観た者は、この映画が”怖い”という一言では語ることができないことに気付くだろう。
例えば舞台となっている湾岸地域は、中途半端に古いものと新しいものがある場所。「湾岸地域は東京のサイクルの矛盾が一番ハッキリ見える場所なんです。過去に生きた幽霊と、現在に生きる人間のドラマを描くには最適な舞台だと思いました。」東京を舞台に映画を撮ることが多い黒沢監督は、いつも東京をどう扱うのか考えるのだそうだ。

本作では脚本も自ら手がけたという監督。脚本に関しては、最初から苦労があったそうだ。「幽霊という、はっきりその存在がわからないものと正面きって向き合うことにはやはり苦労しました。当たり前ですが、幽霊もかつては私達と同じように生きていた人間なんですよね。そういう当たり前のことに気づくことから始めました。」幽霊を生身の俳優が演じることについても、”どうやって幽霊というモノを見せればいいのか”思案されたのだそうだ。「幽霊は単なる怪物なんかじゃないですから。」これまでにも自身の映画に幽霊を登場させてきた監督だが、本作ではこれまで以上に強い想いが込められているようだ。

また、三年半ぶりのスクリーン復帰となる葉月さんを幽霊役に機用したことについては「昔から葉月さんが演じる幽霊を見てみたかったんです(笑)。怖くて美しく、この世のものじゃないような雰囲気を漂わせているイメージがあったんです。」と語った。

監督は本作を「自分でもジャンル分け出来ない映画」だと言う。「幽霊に対する”怖い”という単純な反応では飽き足らなくなったんです。それだけの関係じゃなくて、もっと複雑で重たい関係にしたかったんですよ。ジャンルに囚われず、一つの人間ドラマとして観て欲しいですね。」

(umemoto)