赤ん坊の頃、17年前に誘拐された少年・真人。育ててくれた環境に不満はないが、愛情を注いでくれない両親には愛想がつき、17年前に自分を誘拐した女性・桜井愛子こそ自分の母親だと思い、沖縄まで会いに行く。そこから物語が始まる。
主演を務めた松雪泰子は本作の魅力をこう語る。「テーマは深くて、家族のあり方を問う作品だと思います。登場人物ひとりひとりの人生を繊細に描いているにも関わらず客観的な視点があります。観終わった後も、皆さんの感覚で物語を解釈されればなおこの作品の意味は深まるのではないでしょうか。」

愛子は、控えめな印象を受けるが本当は誰かを愛したくて仕方が無い女性なのだ。だがその対象を若い頃に奪われてしまったことでうまく外に発散していくことができないでいる。そんな時にふと表れる少年が、愛子にとってそれまで溜め込んでいた愛情を注ぐ対象となっていく。
傍目から見れば、「他人のくせに気持ち悪い。」と思われるだろう。しかし、愛し合う恋人同士であればそのようなことを言われないし、親子であればなおさらだ。しかし、ふたりの立場があやふやであるから生まれた愛のかたちが認められないのだ。だが、この映画はそんな固定観念を吹き飛ばす力がある。
原作者の藤田宜永さんは「愛娘を若松家にお嫁に出した気分です(笑)。ですから一切口は出しませんでした。ロケ中のお話を聞いて、スタッフの皆さんが熱い気持ちで撮影をしていたとお聞きしたので、この作品は成功するに違いないと思いました。」と話す。原作者にここまで言わしめる力がこの作品にはあるのだ。

そして、少年・真人を演じた柄本佑の自然な演技が光る。出演作が相次ぐ彼の力は今後楽しみだ。「松雪さんとの共演にどきどきしましたが、沖縄の独特の時間の流れに身をまかせて癒されながら撮影に望むことができました。」と撮影期間中について振り返るコメントを残した。

驚きのストーリー展開を自然な流れに見せる、若松監督の力量はもちろん、それぞれ複雑な役柄に息を吹き込んだキャスト陣に改めて拍手をささげたくなる作品だ。
(ハヤシ カナコ)