『ロスト・イン・ラ・マンチャ』で賞賛を浴びたキース・フルトン&ルイス・ペペ監督。彼らの最新作『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』が第19回東京国際映画祭にて上映され、二人の監督が来日記者会見を行った。

—真実か。それとも虚構の世界か。—
テリー・ギリアムを破天荒なドキュメンタリーで描いた彼らが今回描いたのは、1975年のイギリスで衝撃的なデビューを飾った結合体双生児ロックバンド”ザ・バンバン”。そのあまりにもセンセーショナルな出来事を、真実と虚構の境界線上に立って描き出していく。次々に挿入されていくインタヴューなどはあたかもそれがドキュメンタリー映像のように観客の目に突きつけられる。

しかし。
「この物語はリアルとフィクションがブレンドされているんだ。この映画の中に出てくる人物たちはみんなうさんくさい人ばかりで、観客たちは彼らのことをなかなか信じられないだろう。しかも、その疑念は払拭されないまま終わってしまうんだ。」とキース・フルトンは語る。
例えば、関係者の一人として出てくるケン・ラッセル監督は本人として出演している。しかし、原作者のブライアン・オールディスとしてでてくる人物は本人ではない。ドキュメンタリーの構成をもちつつも、そこに描き出されるのはフィクションなのだ。

—これは本物ではない—
では、なぜこのような表現方法を選んだのか。
「ドキュメンタリーの良さは人間の本質を捉えたり、模索していくことができることなんだ。」(キース・フルトン)
「ただ、フィクションはひとつの世界を作り上げることができる。それはとてもエキサイティングなことなんだ。74〜75年のロンドンパンクシーンをつくりあげてからあたかもドキュメンタリーのような手法を用いたことによって、この物語に僕ら自身が入り込むことができた。そして、その中で人間の本質を捉えることができたんだ。」(ルイス・ペペ)

そして、最も大きな理由がブライアン・オールディスの原作にあるのだとキース・フルトンは言う。
「ブライアンとはかなりの時間を飲んで過ごしたんだけど、その間になぜこの物語を書いたのか聞き出そうとしたんだ。そしたら彼は、『これは本物ではない』と言った。でも、あの時代に結合体双生児ロックバンドが実在したという人もいる。しかし、ブライアンは絶対にこう言うんだ。『これは自分が見た夢だ』ってね。」

—”ひとり”の兄弟—
ひとつの胴体を共有するトムとバリーという”ひとり”の兄弟。狂気のステージ・パフォーマンスと不気味なほどの美しさが、一瞬にして人々の好奇と嫌悪を熱狂に変える。しかし、彼らが歩んでいく破滅への道。そんな”ひとり”の兄弟に、二人の監督は自分たちを重ねていたのだと言う。
「彼らの中央にはとてもミステリアスで、強く結ばれたものがある。私たちも長年コンビを組んできて感じるのは、クリエイティブに対するミステリアスな部分なんだ。それを2人の兄弟に投影することができた。彼らも結ばれてコラボレートしている。彼らが結合されているのは一つの祝福なんだ。しかし、それは二人にとって一つの、呪いでもある。」(ルイス・ペペ)

そんな主人公を演じたのは、今作が共に映画デビュー作となったハリー・トレッダウェイとルーク・トレッダウェイ。
実際の双子である。
「あの二人に会った時に強く感じたのは、二人の間にとてもミステリアスな関係があるということだった。それはトムとバリーのそれに類似したものだった。双子でない私たちにとっては想像の中のものにしか過ぎないが、もしかしたら恋人との親密性のようなものかもしれない。それをフィルムに残したかったんだ。
細かいことなんだけどね。気づくと二人が手を繋いでいたり、座っていたら相手の頭をなでていたり。たぶん、本人たちは無意識で、ごく自然なものなんだよ。」(ルイス・ペペ)

撮影中のある日、二人が双子だということを知らないスタッフが彼らに、「どこで二人は出会ったのか?」とたずねたそうだ。そうすると二人はこう答えた。

「子宮のなかで。」

(林田健二)