2001年1月26日、線路に転落した男性を助けようとして、命を落とした韓国人留学生イ・スヒョンという青年。実際に起こったこの事件の勇敢な青年をモデルにした映画『あなたを忘れない』が第19回東京国際映画祭にて上映され、監督、出演者、そしてイ・スヒョンさんのご両親が出席した記者会見が行われた。

この映画は日韓合作映画。今回の東京国際映画祭のほかに、釜山国際映画祭でも上映されている。この事実にも象徴されているように、ひとりの青年の勇敢な行動は、日本と韓国という2つの国を堅く結びつけた。海を越えて大陸をつなぐひとつの架け橋になったのだ。そんな大きな意義のあるこの映画を一人でも多くの人に伝えたいと、出席者全員が口々に語った。

そして、今は亡きイ・スヒョンさん自身も同じことを思っているのではないかと花堂純次監督は語る。
「撮影中、本当にラッキーなことがたくさんありました。イ・スヒョンさんが天国から助けてくれたとしか思えないようなことばかりです。たとえば、富士山の山頂を撮影するシーンがあったのですが、地元の人に聞いてもきれいな山頂が見れるような天気は稀で、しかも1日しかチャンスがなかった。当日、早朝から準備をしていたんですが、やっぱり雲がかかっていて。でも撮影しようという30秒間だけ、すっきりと晴れ渡ったんです。そして撮影を終えたらすぐに雲がかかりました。」

出演者たちも多くのエピソードが印象に残っているらしい。2000人のオーディションから選ばれた新進俳優イ・テソンは「ラストの線路に降りて行くシーンで監督に一言なにか言ってほしいといわれました。でも直前まで悩んでもなかなか決まらなくて、撮影本番になったら自然と”大丈夫だ”って言葉がでたんです。」と語り、ヒロインの星野ユリを演じた、今作が映画初出演となるHIGH and MIGHTY COLORのマーキーは「見る景色がすべて温かかったのを覚えています。夕日の上に龍の形をした雲が出てきたときはとても驚きました。」と話した。

出演者達がそれぞれの印象深いエピソードを語っていく中で、花堂監督が突然思い出したように話し出した。「これ、一番大事なエピソードなんですけど」と始まったそのエピソードは実に印象的なものだった。
「最後のイ・スヒョンさんが電車に立ち向かっていくシーンなんですけど、その姿がどんなものだったのかとても悩みました。わからなかったんです。ですが、撮影に入る少し前に1通の手紙が来たんです。本当に少し前。その手紙は、事件の目撃者からのものでした。そこに書かれていたのは、イ・スヒョンさんは電車に立ち向かっていくとき両手を前に広げていた、ということでした。」

本作の公開は事件があった1月26日の翌日、1月27日(土)。制作側が公開日も決めたほど強い思いを込めた『あなたを忘れない』。二つの国をつなげた一人の青年の想いを、ぜひ感じてほしい。
(林田健二)