”十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(むこ)を罰するなかれ”

『Shall we ダンス?』(96)で世界的に大ヒットし、社交ダンスブームをも巻き起こした周防正行監督。彼が11年ぶりの映画の題材に選んだのは”裁判”だった。

主人公・金子徹平はある朝、満員電車の中で痴漢に間違われて現行犯逮捕されてしまう。無実を信じることは愚か、話もちゃんと聞いてくれないという状況の中で孤独感と焦燥感に必死に立ち向かいながら否認し続ける徹平。果たして日本の裁判が彼に下した判定は・・・?

『それでもボクはやってない』は”知っておくべきことについて無関心でやり過ごしていることに腹立たしさを感じた”という周防監督の怒りから作られたと言うだけあって、完成したこの映画の魅力は完成度の高いドラマや豪華俳優陣の名演技だけではない。現在の日本の裁判制度を理解する上でも重要な作品であり、何も知らないでいる私たちに疑問を問い掛けてくるのだ。
「刑事裁判について調べていくうちに、自分が思っていたものとは全く違うことに驚き、本当にこれでいいのか?ということを皆さんに突きつけたくなりました。裁判は撮らないではいられない題材だったんです。ストーリーに目を通しただけで気分を悪くされる方がいるかもしれませんが、痴漢は恥ずべき卑劣な行為であり、この映画では”刑事裁判”への導入にすぎません。」と周防監督はデリケートな問題だけに気を使われたようだ。
これまでとは違った作風であることに関しては「今回は1度もおもしろい映画を作ろうなんて思いませんでした。私が感じたままのものにしようと思ったので、ただしゃべるシーンも、裁判所での単調なシーンも現実どおりに撮りました。作為が全くないという意味で特別な作品ですね。」と本作への想いを語ってくれた。

無実の罪を問われてしまう徹平を演じたのは、話題作への出演が続く加瀬亮さん。複雑な心境を見事に演じきった加瀬さんは「ホントにすごい映画に出させてもらったと思います。」と断言。「撮影中は気づかなかったんですが、完成した作品を観終って、本当におもしろい映画だと思いました。笑いはないですが、監督のこの映画の出発点を想像すると幸せな気持ちになりました。そこまで伝われば嬉しいですね。」

また徹平の弁護にあたるベテラン弁護士・荒川を役所広司が、新米弁護士・須藤を瀬戸朝香が演じている。日常使わない言葉の長セリフには苦労したと言う二人だが、本物の弁護士の指導の下、忠実に撮影されたという法廷シーンは彼らの演技力によって非常にリアルなものになった。「台本には監督の3年間の取材による力強いものがありました。作家として監督が伝えたいものがこの映画に映っていることに感動し、いい映画に間違いないと確信しました。1つ1つに力があり、この映画を観れば裁判に衝撃を受けると思います。」と役所さん。

これはただの映画ではない。監督が3年かけて調べあげた日本の刑事裁判の現実が、ここにある。
(umemoto)