先週土曜日渋谷ユーロスペースにて『サンクチュアリ』の初日舞台挨拶が行われた。

娘の結花と田舎に帰り、酒に溺れる自暴自棄な生活を送る母、山本アキを演じたのは『嫌われ松子の一生』での好演が記憶に新しい黒沢あすか。
「私はこの作品で演技をするということを改めて意識することができました。それまで打ち破りたいけれど、できない壁を感じていたんですが、この衝撃的な作品でその壁を乗り越えられたのではないかと思います。女は何を考えているのか、どうやって事を起こすのか、ということを観客の皆さんにはわかっていただけるのではないかと思います。」と、話す。
30半ばを過ぎた今、女優として更なる飛躍を見せてくれそうだ。

アキとは逆に幸せな家庭を持ちつつも彼女との官能的な関係に溺れていく母、黒木裕子を演じた山下葉子は「脚本を読んでこれは私がやらなくはいけない!運命の作品に出会ったと感じました。黒木裕子という女性と、そして自分自身と心底向き合って演じきることができたと思います。」と、黒木あすか同様、山下葉子にとっても転機となる作品になったようだ。

一見、幸せに見える女と幸せに見えない女が絡み合った現実の中で、出会い、別れ、再会した時向かう場所は果たしてどこなのか。
それはサンクチュアリ=“聖域”なのか。

瀬ヶ敬久監督は実際に起こった事件をヒントにこの作品を作った。そして、人の心から消えることのない「憎しみ」「復讐」という感情が生み出す悲劇の問題性を世間に問うた作品であると話す。
「実人生の中では、壊れて解放したほうがいいという現実も多々あるものです。主演のおふたりはそう言った現実と直面した女性と上手く演じきってくれたと思います。黒沢さんが演じるアキについては毒婦が時折見せる可愛い顔にどきっとさせられていました(笑)。」と、撮影中のエピソードも語る。

この作品とシンクロする様に起きた畠山鈴香容疑者の事件を紐解く上でも、『サンクチュアリ』を鑑賞することは有意義なことだろう。

女の変貌は如何にして起こるのか。
文明社会は秒単位で進んでいくものだが、人の感情は人が生まれた時からほとんど変わっていないという事実を目の当たりにしてみてもいいかもしれない。

(ハヤシ カナコ)