9月25日都内某所にて、『王の男』のキャストらが来日記者会見を行った。

史上最悪の暴君と呼ばれた実在の王、ヨンサングン。
『王の男』の原作「爾」でもヨンサングンは、国民を貧困に喘がせた王として描かれている。しかし、『王の男』では母親を服毒自殺させられ、大人になっても本当の愛を与えられずに育ってしまったひとりの男の悲しい姿が描かれている。歴史上に刻まれた言語道断な所業の数々を消すことはできないが、『王の男』には新たなヨンサングンの人間的魅力が溢れている。
ヨンサングンを演じたチョン・ジニョンは「撮影前に今までとは違うヨンサングンを見せたいと監督と話していました。私は演技に入る前にいつも準備をするんですが、ヨンサングンの場合は彼の内面を感じとらなくてはいけませんでした。不安もありましたが、現場に行って新しく感じたことをそのまま演じてたりということもしていました。映画の中では、愛を持たずに生きてきたために愛することができない哀しい人間の姿を伴う彼の姿を演じることができたと思います。」と、役作りについて語った。

暴君の天下で地獄絵図と化していく一方、芸事の好きな王のおかげで高級芸者・妓生の文化は栄えていた。
固い友情で結ばれた幼馴染の旅芸人、チャンセン(カム・ウソン)とコンギル(イ・ジュンギ)は国一番の芸人となるという決意を胸に、漢陽の都にやってきた。贅を尽くす宮廷の様子を皮肉った芝居をすることでふたりの評判は一気に知れ渡った。が、それが仇になりその重臣に「王が芝居を見て笑わなければ死刑だ」と言い渡される。そして、王の前でチャンセンとコンギルは芸を披露することなる。

男気溢れる自由な男チャンセンを演じるのはカム・ウソン。劇中に登場する風貌とはまったく違うスマートな装いのカム・ウソンは「私が演じるチャンセンとジュンギ演じるコンギルの切っても切れない繋がりが見えるように演じました。コンギルを見ていてもその後ろにチャンセンが見えるように、またチャンセンの後ろにコンギルが見えるように。あとは熟練した芸人に見えるか不安でした。撮影前に2ヶ月ほどかけてありとあらゆる芸を身に付けました。撮影に入ると思ったより早く進んだので、監督に「もっとふたりの芸のシーンを撮りましょうよ」と提案して、一度ワンシーンワンカットのシーンを撮ったんですが、ふたりの距離が近すぎて私が口の中に6針も縫う怪我をしてしまったので、そのシーンはカットされてしまいました(笑)。」と意外な撮影中のエピソードまで語ってくれた。

純粋な内面と、男女ともに魅了する容姿を持ち合わせたが故に王に気に入られてしまう、コンギルを演じたイ・ジュンギは、「先輩には本当に申し訳ない傷を負わせてしまいました。僕自身も役に成りきろうと思ってお酒を飲みすぎたら階段から落ちそうになったこともありました。本当に皆さんにご迷惑をおかけせずにこの場にいられてほっとしています。」と、異常なまでの役作りをしたこともあったようだ。

元々持ち合わせた美貌は『王の男』でさらに魅力的に映像化されている。
共演したおふたりはドキドキすることはなかったのだろうか。「女性っぽい設定なのに、オーディションで会った時はすごく男っぽかったのでびっくりした記憶があります。原作の中では同性愛者として描かれていますが、映画ではあくまでも運命をともにするパートナーとして、異性としての感情は一切持ちませんでした。ただ、ジュンギは唇がとてもきれいなので見とれることはしばしばでした(笑)。」とイ・ジュンギの魅力を話した。映画の中ではまるで兄と妹のような愛を育むふたりに心打たれるだろう。チャンセンの選ぶ結末はコンギルのためというのはいうまでもないが、そこには空高く舞う鷹のような自由を追い求めたチャンセンの生き様も描き出されている。

「チャンセンとコンギルの関係についてはこれまでも散々聞かれて心に傷を負ったこともありますが、映画の中で僕達の関係をつなぐものは友情です。自分の役柄は男でも女でもない中性的な役だと思いました。演じている時も何を考えているのかわからないように演じました。撮影中についてしまった女性らしさを消すのは大変でした。でもそれは自分がそれだけコンギルに成りきっていたということだと思います。この作品に出演することでができて、俳優としての夢も膨らみましたし、これからも先輩方のように心を込めて演じていきたいと思います。」と、俳優として意気込みも語った。

今までと異なった3人の新たな関係を描いた『王の男』は韓国で1300万人を動員した。この数字は南北問題を描いた数々の代表的な作品を超える。それほどまでに韓国の人々を魅了したものはなにか?コンギルの美貌か。哀しい結末を選んでまでも強く結ばれた絆か。それとも、極悪非道の王の実像なのか—。人と人結ぶ絆が激しく絡み合う『王の男』。
12月より公開!!
(ハヤシ カナコ)