広島に原爆の閃光が光ってから61年。
あの時の閃光は人々との死を分け、生き残った人や、彼らの子供の人生をも大きく変えていった……

平成16年度文化庁メディア芸術賞マンガ部門大賞、第9回手塚治虫文化賞新生賞受賞した、こうの史代作『夕凪の街 桜の国』。
静かな口調で平和の尊さを訴えたこの作品を、『反落ち』(05)『四日間の奇跡』(05)『出口のない海』(06)の佐々部清監督が、完全映画化。関東近郊と広島で約一ヶ月に及ぶ撮影を8月24日に終えた、映画『夕凪の街 桜の国』クランクアップ記者会見が9月19日キャピトル東急で行われた。

原作者のこうの史代は、『夕凪の街 桜の国』が映画化するとは考えてもいなかったという。ロケ現場を見学し「段々と本当の話になっていくような不思議な感じがしました。撮影初日も、今日の朝も、空を見上げたら綺麗なうろこ雲があって、見えない魂に支えられていると感じています」と話した。

被爆者2世である石川七波を演じた、田中麗奈は、役作りのため、撮影前に家族で広島のへ行ったという。「広島に行って家族で家族で話し合い、“大勢の人が死んだ”というのではなく、家族や、夢を持っていた一人一人が亡くなったということを感じ、胸が痛くなりました。現代の明るい女の子を演じるのではなく、被爆者2世がそれらを乗り越えた上での生きる希望を伝えることが出来ればと思います」。

原爆投下により、父、妹、姉を亡くす皆実を演じた麻生久美子は、原作・脚本を読んだ段階から、皆実役に惹かれていたという。「今まで色々な役を演じてきましたが、自分からこの役をやりたいと思ったのは初めてです。私からみて、皆実はとても遠い存在で、距離を縮める為に色々勉強しました。でも、彼女の気持ちを理解することよりも、理解しようとする姿勢が大切だと思うようになりました。この役に出会えて、かけがいのないないものを得ることができたと思います。100年後も、200年後も観続けられてゆく作品になることを祈っています」と語った。

『四日間の奇跡』以来の佐々部監督作品となる、中越典子は「悲しい話で、辛い歴史を感じますが、悲しいことを乗り越えて希望に変えるという、前向きな作品です。一人でも多くの人が観て、前向きになってもらいたいです」と話した。

『原爆で死ぬのを見るのはもういやなんや』というセリフが印象的だったと語る、皆実の母を演じた、藤村志保は「何も恨みがましいことは言わずに生きてきたフジミですが、このセリフに、フジミが生きてきた中の重要なメッセージがあると感じました。この作品で、世界の人に生きることの大切さを伝えられればと思います。」

七波の父で、皆実の弟、石川旭を演じた堺正章は「戦時中に疎開し、家族の中で唯一被爆を逃れたという、複雑な役を演じるのは不安でしたが、佐々部監督の真っ直ぐさを目の当たりにして、この人を信頼していれば大丈夫だと思いました。この作品は被爆国日本が抱えてきたものの集大成だと思います」。

佐々部監督は“被爆”を扱ったことについて「『出口のない海』で戦争を扱った時ももそうでしたが、腹をくくる必要がありました。ただ、この作品は被爆の差別を声高に語ってるのではなく、家族の情愛、友情、恋愛がベースにあります。その背景に被爆があるのなら撮れると思いました。」
唯一の被爆国として、『誇りを持って作ろう』とスタッフ・キャスト共に臨んだという今作は、2007年度カンヌ国際映画祭に出品が予定されている。
(t.suzki)