9月7日都内ホテルにて、世界三大映画祭のひとつモントリオール映画祭で三冠を成し遂げた奥田瑛二監督が成田から帰ってきてすぐに会見を開き吉報を伝えた。

「グランプリ発表の時、司会者の前振りが長くて、すっかり違う作品のタイトルが呼ばれたと思っていたら、たどたどしい日本語で『ナガイサンポ!!』と言われて、家内の悲鳴が聞こえたと思っていたらいつのまにか登壇していました。」と、受賞直後の様子を話す奥田監督を見ていると、その当初の様子が目に浮かぶようだ。

亡き妻への贖罪の念を背負い生きる男が、偶然隣り合わせた部屋に住む少女とお互いにとっての理想郷を求める『長い散歩』。しかしそれは現実世界では誘拐という。白髪の老人と背中に羽の飾りをつけた少女が手を取り合って旅に出るという現実離れしたように感じられるストーリーは、監督と監督のご家族によって練り上げられた脚本によって立体になり、年齢層も様々の魅力ある俳優陣たちの力で息を吹き込まれたように動き出す。「脚本の桃山さくらというのは、家内と娘の桃子とさくらの名前をひとつにしたものです。仕事を家庭に持ち込まないという人がいますが私はまったく逆ですね(笑)。書きかけのシナリオをリビングにおいておくと必ず家内の赤が入って、娘たちも『ここは違う』と言ってきます。家族みんなで何時間もシナリオについて話すこともありました。」と、家族の絆の結晶とも言える作品になったようだ。

人生の再起を魅せる『長い散歩』は当映画祭では類をみないほどの混雑ぶりをみせた。「エンドロールが終わっても誰も席を立たずに拍手が沸き起こりました。スタッフの人にも、『こんな状況は見たことがない!』と言われました。観に来てくれた観客の方の中には何回も観に来てくださる方もいました。彼らを花菜ちゃんと待ち受けていると、みんな花菜ちゃんを見て涙をためて近づいてきて感想を話してくれました。今までぼくは観に来てくれた方に『観に来てくださってありがとうございます。』と言っていたんですが、ある人に『ありがとうを言わなくてはいけないのは僕らのほうだ。こんなに素晴らしい作品を見せてくれたのは君だ。君はありがとうなんて言わなくていい。』と言われて、ああそうかと思いました。それからは観に来てくれた方と無言で目を観て握手をするようにしました。すると皆さんまた、目に力をこめて手を握り返してくださるので、『この作品が伝わっているんだ。』と思いました。」と、言葉が異なっても伝えたいことは伝わる映画の強みを感じるコメントを残した。

受賞後に行われる審査員と受賞者とのパーティでは、審査員のキャシー・ベイツ氏に「『良い映画を見せてくれてありがとう。この映画には魂がある。あなたが伝えないといけないのよ。』と言われ、日本での公開に向けて背筋がぴんと伸びたように感じました。」と、12月からの公開に向けての気持ちを新たにしていた。

モントリオールではアイドル的存在になっていた杉浦花菜ちゃんは「また監督とお仕事をしたい。」という堂々とした発言に訪れた報道陣たちを驚かした。「当時は5歳でしたから本当に大変でした。撮影が終わった後は緒形さんともうあの子の顔は見たくないと言っていました(笑)。でも映画を観るとこの子にみんな会いたくなるんです。花菜ちゃんが中学生くらいになったらまた撮りたいです。」と、今後きっと私たちに感動を運ぶ女優になるであろう花菜ちゃんの魅力を話す。
「『長い散歩』で“俳優・奥田瑛二”よりも“映画監督・奥田瑛二”が皆さんの意識で上になると嬉しいです。先達の監督方は皆さん一本も失敗していない人です。私も一本も失敗しないよう、先達の監督方についていけるように頑張ります。」と監督として人生を真っ当する決意を明らかにしていた。

12月、“映画監督・奥田瑛二”の魂のこもった作品で、あなたの心を潤わせて下さい。

(ハヤシ カナコ)