アカデミー賞主演男優賞など数々の賞を総なめにしたベネット・ミラー監督『カポーティ』。8月23日、ベネット・ミラー監督の来日記者会見が行われた。

『ティファニーで朝食を』などで知られるトルーマン・カポーティが、ある一つの惨殺事件に興味を持ち、犯人との度重なる接触を経て生み出した世界初のノンフィクションノベル『冷血』。この傑作を執筆する間の彼の苦悩・破滅を描いた本作。なぜベネット・ミラー監督は、トルーマン・カポーティという作家を描いたのか。
 「この映画は決してトルーマン・カポーティという男だけのものではありません。野心を達成するために、そのほかのことに麻痺してきて、自分が破滅に陥っていくことすらも気づかない。それはカポーティだけのことではない。個人にも、企業にも、そして国にもありうることだと思います。」

 誰の内面にも存在しうるトルーマン・カポーティの破滅の匂い。その絶妙な空気を演じきったフィリップ・シーモア・ホフマンと監督はハイスクールからの親友とのこと。
 「個人的に知る限り、カポーティを演じるのにフィルは最もふさわしい俳優だと思います。実は、私が思うにカポーティが『冷血』を書く直前とフィルは非常によく似ていました。フィルは俳優としてとても尊敬されているし、いろいろないい仕事をしてきている。カポーティもそのような状況だったけれど、2人とも決定的なものはまだやっていない。そういった状況は非常によく似ていました。」

 カポーティが次第に破滅へと歩みを進めていくにつれ、フィリップ自身もほとんどノイローゼ的になっていった。
 「フィルは内側から役を作っていく役者です。外見からではなく、核の部分をつくり、そこから外へ出していく。そういったタイプの俳優なんです。」
 その役作りはカメラの前だけでは終わらず、撮影期間中はとてつもない陰鬱な現場だったという。彼が受賞した数多の主演男優賞は、当然の結果と言えるだろう。

 会見が中盤に差し掛かった頃、特別ゲストとして、この作品に非常に感銘を受けた田中康夫長野県知事(8/31まで)と浅田彰京都大学助教授の2人が会見に参加した。2人はこの映画に対して惜しみない賛辞を送った。
 浅「作家の生涯を映画にするのはある意味無謀なことだと思います。しかし、それを見事に成功させた大変な傑作。フィリップ・シーモア・ホフマンの演技は実に見事で、本質的類似にまで至ったものでした。また、どちらかというと控えめな、しかしディテールをおろそかにしない撮影、編集が非常にクール。」

 カポーティと同じように、作家としても活躍している田中康夫知事はこの映画の価値についてこう語った。
 田「我々が相手が喜ぶと思っていったことが、必ずしも相手を喜ばせるとは限らない。裏切りなんかではなくて、それが言葉というものだと思います。カポーティが言っていることに、周りが心底笑っているわけではなくあわせているだけでも、彼はそれを逆にエネルギーとした。そして表現者たり続けた。そんな、安住ではなく挑戦していく様をみて、若い人には人間もすてたもんじゃないと感じてほしいですね。」

(林田健二)