「加速するデジタルシネマ・ビジネス—配信と上映をめぐる世界の動向—」
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭でデジタルシネマにおける「配信」と「上映」の最新動向を探るシンポジウムが開かれた。
現在のデジタルシネマ・ビジネスについてのリアルな話を聞かせてくれたのは、各国でプロジェクトに取り組むパトリック・フォン・シコウスキーさん、バッド・メイヤーさん、藤井哲郎さん、ヨタム・ベン‐エイミーさん。それぞれのプレゼンテーションの後、Q&Aが行われた。

デジタル技術による映画制作のメリットに注目が集まっている今日だが、やはりまだ完璧ではなく、そこには課題があると言う。
藤井:「例えばデジタルという技術は新しいものであるので、もちろんそれを使う者の教育や説明をする資料が必要になります。それは映画に限らず、変革の時にはいつでも必要なことです。もう一つ対策しなくてはいけないものと言えば、映画館で上映した時にノイズが入るというトラブルがあることです。これらへの対策を考えなくてはいけないと思っています。」

メイヤー:「我々は先駆けてデジタルの技術に携わってきましたが、今は同じような段階のことをしている国が多いです。ニューヨークの郊外に劇場を買って、デジタル上映を試験的に行っていますが、2007年の11月には全てのハリウッドのメジャースタジオでデジタル公開できるだろうと思っています。劇場運営する人間のトレーニングをすることも必要ですね。常に変革とそれに伴う行動力で問題に対応していかなくてはなりません。」

シコウスキー:「ハリウッドには経験があり、よりスムーズなデリバリー体制が取られています。しかしその他の海外では、例えばローカル上映での字幕や検閲の問題があります。そして今では世界同時公開が更に問題を難しくする要素になっています。『ダ・ヴィンチ・コード』や『M:I:Ⅲ』はそういった点で上映できなかった国があるんです。特に『ダ・ヴィンチ・コード』は英語だけではなくフランス語やラテン語が使われていた為、字幕をつけるのに時間がかかったのです。ノルウェーで上映するものにはノルウェー語の字幕を英語字幕の下につけることもできましたが、それは望ましくなかったのです。そこまでコストをかけてやる必要性が感じられなかったんですね。やはりローカリゼーションは難しいです。」

藤井:「日本での字幕の需要は大きいです。いかに字幕を手早く作るか、ということは日本にとっても大事なことです。」

メイヤー:「今までのやり方とはやはり違いますね。ハリウッド側の役割を考えた上でローカルな映画館側のニーズを考えなくてはいけないと思っていますが、映画会社側はJPEGの規格のみを採用している状態です。問題を解決するには適切な問いを投げかけることが大事です。今後はアジアでのプレゼンスを高めていきたいですね。」

デジタルシネマと35ミリフィルムを比較してみてどうですか?
メイヤー:「デジタルの方がはるかに優れていますね。それは高解像度で画像が美しいだけではありません。長いスパンで見た時にわかることですが、画質や音質の劣化が起きないんです。プリントのコストも低くて済みますし、監督やプロデューサーも興味を持つのではないでしょうか。」
藤井:「“デジタル=綺麗”ではないんですよ。例えば地球の裏側の国と通信をする場合、アナログではノイズがどうしても酷くなってしまいます。それがデジタルなら品質を保つことができるんですね。デジタルシネマのパッケージを安く作れるようになりましたし、いろんな新しいチャンスが広がっていくと思います。」

映画配給会社への影響は?
シコウスキー:「配給会社と言っても、配給の仕事は全体の10パーセントぐらいです。彼らの仕事には他にもマーケティングなどの重要な仕事があるので、配給会社がなくなることはないです。」

映画料金への反映や法律的な問題は?
ベン‐エイミー:「劇場側が費用を100パーセント負担することはできないので、チケットが安くなるとは断言できません。アメリカでは違法業者を追い立てる法があります。言ってしまえば、3人いれば高画質での違法コピーはできるんですよ。それが脅威になっています。今年度末には1800館、2007年10月には4000館、そして2009年にはアメリカやカナダの劇場の3分の1がデジタルシネマ用のスクリーンになる予定です。」

■「4K Pure Cinema」について
世界初のネットワーク配信デジタルシネマ共同トライアル。従来のアナログフィルムではなく、日米間の配信データおよび国内の配信センターと複数の映画館を高速の光ファイバーで結び、最高品質の画像をネットワーク配信!配給プロセスの負荷検証や映像品質、運用体制、セキュリティ、ネットワーク配信や劇場運営のコストなどをいろいろな観点から検証している。現在では「シネマ メディアージュ」、「TOHO シネマズ六本木ヒルズ」、「TOHO シネマズ高槻」、「ワーナー・マイカル・シネマズ 板橋」、「TOHOシネマズなんば」で公開上映中。最新上映作はトム・クルーズ主演の『M:I:Ⅲ』となっている。
(umemoto)

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006 公式HP
http://www.skipcity-dcf.jp/