「マイケル・ジャクソンが来日してる中、わざわざこっちに来て下さったマスコミ各社様、そして観客の皆様ありがとうございます。」とまず洋画初主演のオダギリジョーが観覧者に感謝の意を表した。

すべてのセリフが英語であるということに戸惑いはなかったのか。「最初は大変に感じてました。けど、撮影が進むにつれて、“方言”と同じだなって思うようになったんですよ。感情を言葉にのせていくことにはどちらの過程作業も変わらないんです。留学の経験で培った英語も少しは役に立っていたと思います。」となんなく、英語という関門は突破していた。

船橋淳監督も「言葉の面はまったく心配はなかったですね。それは表面的な問題で。飄々と演じていて、素晴らしかったです。実際、英語に親しんでいる他の2人がセリフをとちる中、オダギリさんはそんなことはなかったですね。」と撮影時の様子を語る。

撮影中、オダギリジョーの英語を指導したのはケロハというハワイ出身の女性。しかも彼女は小道具でこの映画に参加していたのだが、撮影開始2日目前任者がスクリプター役を辞退してしまい、ピンチヒッターとしてこの仕事することになった人だという話も飛び出した。「彼女はいっしょに写真も撮ることが苦手なくらい、女性的な面も持っていましたね。若いけどしっかりしていました。シーンの前に、20分くらいアクセント指導とか、してもらいましたね。スタッフとももちろんすべて英語なんですけど、僕の幼稚園レベルの英語が逆に、皆さんに可愛がってもらえてコミュニケーションがうまくはかれました。撮影が終わる頃には家族になっていました。」と、ロケ当時の雰囲気を語ってくれた。

共演した、カヴィ・ラズとクロエ・スナイダーについては「カヴィはベテランだからことできる、現場の引っ張り方を心得ている方でしたね。楽しい方でしたよ。クロエは映像の仕事をするのが初めてで、僕もアメリカは初めてで、お互い緊張しながら成長していきました。この作品を通じて、今まで僕が持っていたアメリカ人に対する偏見を覆すことができたな、と思います。」と自身の中にある作品の位置づけについても話は進む。

私たちに根付く固定観念の解消をめざすことがこの作品を作るきっかけだったと、監督は語る。「僕たちは今、アラブ人を見るとすぐにテロという行為に結びつけがちですが、そうではないということをわかって欲しいんです。アメリカは移民の国であり、本当に多種多様様々の人々が住んでいます。移民からみたアメリカを描きたかったんです。そして、この映画ではそういう人々の姿を描いていくなかで、決して政治的な意味合いを持たせたくなかった。僕は自分の肌で感じたことをみなさんにも感じて欲しいんです。」
この監督の言葉を受けたオダギリジョーは「僕は自分の役を監督の分身になったつもりで演じました。この役を演じることは今しかできないと思ったし、この役をお受けしました。こういう年が近い監督と仕事ができるってことはすごく嬉しいことなんですよ。ひとつしか違わないのにこんなに仕事が出来るのか、って監督には感じさせられました。素晴らしい出会いをさせていただいたと思います。」と監督との出会いについて話した。「僕はオダギリくんのことを黒沢清監督の『アカルイミライ』という作品で知ったのですが、オダギリくんの演技がすごく光っているところがたくさんあったんです。そしてすごく複雑な俳優だな、という印象を受けました。」と印象を語った。

年代の近い若き才能が出会うべくして出会い、誕生した『BIG RIVER』。DVDでは感じられない広大な景色と、心を解きほぐす音楽にぜひ劇場で酔いしれて欲しい。

(ハヤシ カナコ)