4月28日(金)第二次世界大戦の大きな転機となったと言われている硫黄島での戦いを、オスカー受賞監督であるクリント・イーストウッドが描いた2部作『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の製作報告記者会見が行なわれた。

『父親たちの星条旗』では硫黄島の戦いがアメリカからの視点で、そして『硫黄島からの手紙』では日本からの視点で語られている。両作品は歴史上に残る戦いを日米双方の視点から描くという、前例を見ない映画として注目を集めている。

今回の記者会見ではクリント・イーストウッド監督に加え、『硫黄島からの手紙』の主演・渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童が本作について語ってくれた。

監督:「映画を撮ることになって1945年の戦況を調べました。硫黄島の戦いでは日本側のユニークな防備に興味を持ち、栗林という実在の兵士の人間性を知りたくて日本から本を取り寄せたりもしました。その結果、アメリカにも日本にも似通ったものがあることに気が付きました。若くして人生を終わらせてしまった人がいるというのは共通しています。そしてこれは2つのプロジェクトだという意識が芽生えました。」

渡辺:「この役を受け止められるのだろうか?と感じるほど重い課題でした。ユニバーサルな感覚を持っていた日本人が60年前にいたというのを自分に重ねて、この役を頂いた意味を感じました。この映画が日本とアメリカ、また日本と世界という掛け橋になればいいと思っています。日本がこういうふうに生きようとしていたというのを伝えられるといいですね。」

二宮:「とにかく人間であり続けることを考えていました。たくさんの兵士に囲まれて、どんどん人間味がなくなってんですよ。最後に自分の中で受け止めて、次につなげていけるよう頑張りました。」

伊原:「実在する人物を演じたんですが、とにかくこの役が決まった時は本当に嬉しかったです。海外で演るというのは初めてだったんですが、芝居は日本にいてもアメリカにいても変わらないんだというのを感じました。」

加瀬:「本は読んだんですが、戦争のことは理解できない部分もありました。ただ、故人の気持ちを考えると、今の自分よりも何倍も生きたいという思いが強かったんじゃないかと思いました。自分が役者として演じて映画として残せたら、何か意味があるんじゃないかと考えて取り組みました。」

中村:「役者として自分に何ができるかを考えて、真の異文化交流ができればと思いました。芝居は自由にやらせてもらえる監督だったので、のびのびやらせてもらいました。」

役作りはどうされたんですか?
渡辺:「多くの資料を見ましたが、60年前のことなので情報が錯綜することが多かったんです。でも大事なのは、栗林という兵士が何を考え、感じた上でプランを考え、そして散っていったのかということでした。もちろん歴史的背景といった正確な情報を入れながら演じました。また栗林さんの生家を伺い、彼の中に潜んでいた思いや悲しみがどこにあったのかを模索したりもしました。」

日米両サイドから描くことによって、この戦争をどのように捉えたのですか?
監督:「アメリカ側からの視点で見ると、硫黄島は最大激戦地でした。戦争自体よりも、帰還後どういう人生を歩んでいったのかに重点をおきました。あの戦争がネガティブに働いた人もいれば、政府に利用されて心の葛藤さえ覚えた人もいたのです。また日本側からの視点では、若い兵士が帰れない覚悟で、死を覚悟して戦争に向かうというのに共感できませんでした。日本兵の気持ちになれるよう、感じれるようになろうとしました。硫黄島に行ったのは感動的体験になりました。あの戦争では、多くの親が子供を失いました。どっちが勝ったのかというのは大事なことではありません。多くの人に人生を失わせて、どういう結果を及ぼしたのかというのが大事なのです。」

日本の俳優陣の起用理由を教えてください。
監督:「渡辺謙さんは昔から尊敬していた俳優でした。アカデミー賞の授賞式の時に会ったんですが存在の大きさに打たれました。スクリーンだけでなく、個人の存在感がすごいのです。こういったものは栗林さんを演じてもらうには必要なものでした。彼のスチール写真が残っているのですが、それを見ただけで存在感やクリエィティビティを感じるんです。他の俳優についてなのですが、日本の若い俳優はあまり知らなかったので、オーディションフィルムを見て決めました。日本語がわからなくても、良い演技というのはわかります。本作では全員の気持ちが合い、ベストなものができました。仕事の倫理がしっかりしていて、本気でやるという根性が素晴らしかったです。」

この作品を通して、我々日本人にどんなものを感じて欲しいと思っていますか?
監督:「学べることがあるとすれば、人生を国を守るために捧げていったという行動は歴史の1ページに残るべきだということです。世界中の人に、栗林という男がどういう人間だったのかというのを知ってもらいたい。人生がそうではないように、善悪には線が引けるものではありません。また、硫黄島に眠る兵士達、そしてアメリカの兵士にも敬意を表する時であると思ったのです。両方の国が犠牲を払いました。戦争の中でつらい思いをして戦った、そういう生き方を示したいのです。」

イーストウッド監督が日本で製作会見を行なうのは異例のこと。会見では、この2作品に想いを込めているのが伝わってきた。3月13日にロスでクランクインし、昨日4月27日に硫黄島でクランクアップを迎えたという『硫黄島からの手紙』。監督はこれからポスト・プロダクションに取り掛かるそうだ。出来上がる日が待ち遠しい!

(umemoto)

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□『父親たちの星条旗』
『父親たちの星条旗 』
 『硫黄島からの手紙』
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