悪魔払いでの少女の死亡事故によって罪に問われることとなった神父への裁判をベースに、事件の実像、悪魔の存在の有無を強く投げかけた『エミリー・ローズ』。アメリカ本国のみならず、ヨーロッパや世界中でヒットを記録し、話題となっている。少女エミリーの謎の死を、エクソシズム(悪魔払い)というオカルト領域でのみ語るのではなく、司法の目や、新たな視点を投げかけて、事件をみつめるというこの作品のもつ姿勢には、ホラーが苦手だという者でも強く興味をひきつけられるのではないか。実在した裁判をもとに、脚本を書き上げたという監督のスコット・デリクソンが来日し1月17日に記者会見が行われた。

今回初来日で興奮していると目を輝かせるデリクソン監督は、ジェリー・ブラッカーマーやマーティーン・スコセッシのために脚本などに参加し、最近ではヴィム・ベンダースの『ランド・オブ・プレンディ』では監督と共に原案を担当するなど、その才能は多くの監督たちによって重用されている存在。実際の事件を元にした本作へのアプローチについて
「悪魔払いといえば『エクソシスト』という名作があるし比べられてしまうのは必然だと思う。ホラーの中でも一番よく出来ているし、今までにも数多くの映画があの映画を超えようとして製作されてきたけれど、ほとんどが超えられていないと思う。『エクソシスト』と同じアプローチでは絶対にかなわないと思ったんだ。」
と語り、今回のようなオカルトを裁判で語るという手法に興味をもったという。
「本も何冊も読んだし音声資料もずいぶん探した。実際の悪魔祓いを記録したテープを聴くと、その現象自体は何が原因なのかは断定できないけれど、なにか非人間的なものを感じたしすごく恐ろしかった。」
またそこから感じた恐ろしさをリアルに再現してみせたのは、悪魔に取りつかれた少女を演じたジェニファー・カーペンターによるところも大きいようだ。
「実際の映画ではビジュアルエフェクトや特殊メイクを使ってはいるけれど、そういうものがなにもない状態で最初に彼女の演技をみた時は、僕は本当に恐ろしかった。」
また、現在ハリウッドで流行しているJホラーからの影響についても雄弁だ。
「『リング』『仄暗い水の底から』『呪怨』など、もちろんすべて日本のオリジナル版も観ているよ。ハリウッドのリメイク版より好き。このジャンルの映画作家でJホラーに影響を受けていない人はいないと思う。ストーリーよりも何か説明できないもの、ミステリーの部分の演出がすごくうまいと思うんだ。カーテンの奥をドキドキしながら覗くような感覚があって、そういうところが好き。」
すべての映画監督の中で黒澤明が一番好きだということに話が及ぶと、さらに話は熱を帯びる。
「僕は黒澤監督の作品はすべて観ているし、大学で生徒に黒澤映画を教えているくらいなんです(笑)。エミリーの夢の中に出てくる不気味な大木は、『蜘蛛の巣城』から影響をうけているしこの作品ではほかにもたくさん黒澤映画からアイデアを受けている部分が大きいんだ。」
映画会社にこの作品の企画をプレゼンしにいった際、デリクソンは大勢の人にわかりやすいように自身で「『羅生門』MEETS『エクソシスト』です!」とコピーまでつけていったそうだ。『エミリー・ローズ』は1つの事柄を様々な視点で語ることで、“オカルト”というとかく二元論で語られがちなテーマを可能性豊かに描き、自由を勝ち取ることに成功しているといえる。
(綿野)

★『エミリー・ローズ』は2006年早春、スカラ座ほか全国にて公開!

□作品紹介
『エミリー・ローズ 』