冴えない…という表現は控えめすぎ?勉強もスポーツも人並み以下のコミックマニア。髪はボサボサ、瓶底メガネでデブという、どこをとってもネガティヴなヲタク像まんまな高校生のロベルト。そんな彼が、美しい転校生に恋をしたことからはじまる騒動を、コミカルかつシニカルに描いたチリ映画『落第』。22日の上映後のティーチインの舞台に現れたニコラス・ロペス監督は、太目の体型でメガネをかけ、黒いスーツの胸元には『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパーのバッチをつけ、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のジャックがプリントされたネクタイを着用と、本人もヲタク気質全開で、なんだかとても親しみを感じさせる。終始客席のあちこちに視線を投げかけながら、質問を受け付けている合間にはダースベイダーの呼吸音やゴジラの泣き声を披露するなどサービス精神も旺盛だ。
 「この映画は、僕自身の経験が元になってるんだ。ロベルトは高校の頃の僕そのものだね。まぁ、映画化ということで本物の僕自身よりは、ちょっとよさげになっていたんじゃないかと思うけど(笑)。とんでもない学生生活を、自分の中で昇華するために映画化したんだよ」(ロペス)。
 そうは言っても、本作で描かれるヲタク像は決して奇麗事になどなっておらず、主人公に安易な成功を与えたりはしない。そうした部分でも、日本の『電車男』のようにヲタクの幻想を口あたりよく映像化した作品とは一線を画しているのだ。
 「ヲタクと美女の恋が成就するかって?現実はそんなに甘くないよ。だから映画になるんだろうし、僕もこうして寂しく一人で東京に来てるんだよ(笑)。をたくが結ばれるには、有名になるとかしなくちゃならないからね。でもこの映画で僕もチリでは有名になれたから、ちょっとは希望が出てきたかな(笑)」(ロペス)。
 現在22歳のロペス監督は、20歳の時に本作を撮り本国で大ヒット。本作の製作について書いた著書もベストセラーとなるなど、チリで最も注目されるクリエイターなのだ。劇中にアニメやコミックのコマ割を用いた映像や様々なパロディを盛り込んでることからも判るように、本人も大のコミック・マニア。中でも日本のマンガが大好きで、本作も日本のマンガ…桂正和、大友克洋、宮崎駿らから大きな影響を受けたという。そんな彼が、次回作として構想中の作品は再び青春映画だそうだ。と云っても勿論、一筋縄でいくものではなさそうでこれまた期待が募るのではないか。
 「次回作は青春ものを考えているんだ。アメリカ映画が青春ものを作ると、いろいろお約束があるだろ。でも、僕はいきなりそうしたものを全部すっ飛ばした作品を作りたいんだ。いきなり『アメリカン・パイ9』みたいな感じかな(笑)。彼女はものにできず勿論結ばれることもなく、悪い奴に叩きのめされちゃう。そんな自分なりの“ヒーロー”ものを作ってみたいし、そういうのが好きなんだよ」(ロペス)。
(殿井君人)

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