カンヌはなぜ2度の最高賞を与えたのか。それは映画の完成度+社会問題を見つめ、
人間の希望を描くダルデンヌ兄弟のヒューマニズムへの称賛。

まるで盗品のラジオを売るように生まれたばかりの子供を売ってしまう若い父親の姿を描く『ある子供』。全編にみなぎる緊張感と速度で描ききった映画の完成度とともに、ここには、ヨーロッパをはじめ世界の先進工業国が抱える二極化、希望格差社会に生きる若者の問題への監督のまなざしがある。そして映画のラストにある希望が、カンヌを大きな感動で包み込んだ。

11月1日(火)、渋谷セルリアンタワー東急ホテルにて、2005年カンヌ国際映画祭パルムドール大賞を受賞した『ある子供』のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督を招いての来日記者会見が行われた。

ダンデンヌ兄弟は、1999年の『ロゼッタ』でカンヌ国際映画祭パルムドール大賞、2002年の『息子のまなざし』で主演男優賞、そして本作『ある子供』と3作連続でカンヌの主要賞を受賞、そして2度目のパルムドール大賞受賞という快挙を成し遂げるなど、まさに21世紀を代表する兄弟監督である。

ダルデンヌ監督は、本作を撮る事になった経緯についてこう述べた。
「町で乳母車を乱暴に押す15〜16歳くらいの女の子を見たのがキッカケです。ストーリーを練る時にいつも兄弟で話し合いをするのですが、その時その女の子の話が持ち上がったのです。若い女の子が乱暴に乳母車を押して歩いているのは、赤ちゃんの父親を探している、というストーリーを思いついて。でも最初に私たちで、その父親について想像し始めました。本作はラブストーリーであると同時に父性の物語でもあると言えます。」

また兄弟で作品を撮るにあたってのメリット&デメリットは?という質問には、2人で顔を見合わせ、
「メリットやデメリットは話せません。1人で仕事した事がないからです(笑)。でも唯一言えるのは、例えば一方が白い映画を、もう一方が黒い映画を作りたいという時に決して灰色の映画は作りません。いつも2人で同じカラーの映画を作りたいと思うからです。それで30年前から一緒に兄弟で仕事をしています。うまくいっているのは、性格のせいか、環境のせいか、家族のせいか自分たちでもわかりません。」と微笑む。

キャスティングは、父親:ブリュノ役のジェレミー・レニエの場合、最初から彼に決まっていた訳でなくジェレミーの子供っぽいイノセントな笑顔が印象的だったから決めたとの事で、母親:ソニア役のデボラ・フランソワはオーディションで決定。新聞やラジオで募集をかけたオーディションには650通もの応募が殺到し、その中から選ばれた彼女は監督から「デボラはカメラに愛される資質を持っているし、とても美しい。何よりブリュノ役のジェレミーと彼女が並ぶととてもしっくりくる。」と言われる程の大型新人。

最後、ダルデンヌ監督は「私たちが撮るストーリーは私たちの土地に根付いているもの。フィクションのものは全て私たちの土地に基づいて撮っているのです。人間そのもののストーリーが普遍的なものになってほしいと願います。」と締めくくった。

※2005年12月10日(土)、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー公開

(菅野奈緒美)

◇作品紹介
『ある子供 』