10月5日、『ザ・コーポレーション』ジェニファー・アボット監督を迎え、記者会見が行われた。

『ザ・コーポレーション』はカナダのマーク・アクバー、ジェニファー・アボットの共同監督により、ジョエル・ベイカンの「ザ・コーポレーション」(早川書房)を原作として製作され長編ドキュメンタリー。

企業を一人の人間として精神分析を行うと完璧なサイコパス(精神病質者)という診断結果がでるという。映画はこれを元に、すべては利益の為に働く機関としての企業の様々な症例を分析してゆく。
作品はナイキ(靴)、ロイヤル・ダッチ・シェル(石油)、ファイザー(薬品)といった実在のグローバル企業のCEO達、牛の飼料に発がん性の物質が使われている事をレポートした番組をFOX TVが握りつぶしたことを訴えた内部告発者、ボリビアでアメリカ企業が水道事業を民営化したのに反対し勝利を収めた活動家、「ブランドなんか、いらない(NO LOGO)」のナオミ・クライン、MIT教授のノーム・チョムスキー、そして『華氏911』のマイケル・ムーア監督ら、総勢40名の証言や発言で構成されている。並外れた深さ、挑発、洞察力を備え、2004年サンダンス映画祭をはじめ、25の賞を世界中の映画祭で獲得している。

—— 多くのCEOが出演していますが、どのように出演をの了承を得たのでしょうか

「交渉時には、映画の目的を包み隠さず説明し、断られることも多くありました。ノーム・チョムスキー氏やミルトン・フリードマンからは早い段階で出演の承諾を得て、2人が承諾してくれたことを交渉時に伝えると、他の企業も承諾をしてくれるようになりました」

—— 映画を観たCEO達の感想はどうですか

「全般的には好意的なものでした。彼らの発言を曲げないようにしましたが、完成した映画を観て作品を批判する人もいました」

—— カナダならではの視点はありますか

「カナダは社会福祉に力を入れています。弱者を保護するということがアイデンティティになっており、それが反映されていると思います」

—— 映画では、一般市民の運動によって、企業を変えていこうということですが、本来はCEO自らが会社を変えていくべきだと思いませんか

「企業の中では、一個人の意見というのは反映されません。多国籍企業は、公共の利益よりも株主の利益を優先します。世の中に害を与えたとしても、それに対しての罰金を払った方が、企業としては割に合うというのが現状です」

—— カナダでの公共サービスのありかた、また民間企業について

「一般的に企業は利益を追求することが目的であり、市民らがコントロール出来ていません。カナダのパブリックヘルスケアには長い歴史があります。システムは完全ではありませんが、政府は市民によって選ばれています。民営化されると効率が良くなるというというのは、企業や社会に思い込まされているだけだと思います」

—— なぜこの映画を製作しようと思ったのですか

「人々が行動を起こす為の呼びかけになればと思いました。企業であっても、歴史にそぐわないものは崩壊してゆきます。この映画を見て、市民は無力ではなく、企業を自分達で変えられるのだと思って欲しいです」

カナダやニューヨークでロングラン上映され、世界各国でも草の根的に広がり、多くの観客の支持を得たこの作品。”道を歩いていて、以前と同じようには企業のロゴマークを見ることができなくなった”という意見も寄せられてる。「企業を空気のように当たり前に思っていがちだが、立ち止まって考えてみて欲しい」という監督の言葉が印象に残った。郵政事業の「民営化の是非」といった問題に直面している今の日本で注目して欲しい作品である。
(t.suzuki)

☆2005年12月よりUPLINK X /FACTORY にてお正月ロードショー

□作品紹介『ザ・コーポレーション』