カンヌ国際映画祭・批評家週間に出品され、フランス作家協会賞など4つの賞を獲得した『運命じゃない人』。国内でも高い評価を得ており、マルチクリエイターとして活躍するいとうせいこうさんも本作を絶賛する1人。そんな縁で8月26日(金)、いとうさんと内田けんじ監督によるトークショーがユーロスペースにて行われた。
 
 『運命じゃない人』をすでに3回見たと話すいとうさん。「人生の中でこんなに何度も見たのは初めてかも。つじつま合わないんじゃないか、という部分を確認し終えたのに最後まで見入ってるんですよね。そして見る度に色々な見方ができるんです。今回はキャストの演技でとか、撮り方で見ようとか。さらに原点に戻って脚本で見ようとかね」。それに対し、「何度も見ました、といわれたらとても嬉しいですね」と内田監督。続けて「4回目も面白いですよ。編集が言うには18回目が一番いいらしいです(笑)」と本作をさらに楽しむ秘訣を披露した。

 2人の掛け合いトークが進む中、いとうさんから「『運命じゃない人』は“古典”」という発言が。「古典はいつ古典になるんだ、100年たったら古典なのかと。答えはでないと思いますが、僕は、同じものを2回見たときからその人にとっては古典になると思っています。同じ作品でも演じる人で見たり、衣装で見たりして自分の中で財産になりますから。内田監督は、“古典”を作ろうという意思があると思います。2〜3回見ても良い作品を作ろうと、脚本も撮り方も編集も考えてるんだろうな、っていう。だから『運命じゃない人』は古典なんです」といとうさん。その言葉に内田監督は恐縮しながらも、「僕が憧れてきたものに古典と言われるものが多いからかもしれませんね。漫画でいうなら手塚治虫さん派。つまり王道派なんです」と自身を分析した。
 
 ただ今、次回作に取り組んでいる内田監督。が、すでに「頭がいっぱいでおかしくなりそう。次回作という言葉を聞いただけで泣きたくなる」とのこと。監督は仕事にのめり込むと周りが見えなくなるタイプのようで、「自動改札にTSUTAYAのカードを入れたりとかやっても、もう自分では驚きません(笑)。でも電車の中で台詞を言ったり、本屋で何の商品を持っていないのにレジに並んだり…。結局レジの人と目が合って、会釈して店を出てきました(笑)」。『運命じゃない人』では1年ほど続いたそうだが、こういった状態になるのは「いいアイデアが浮かんでいる時」(監督談)。“内田病”?なる症状がすでに出ている次回作も、その手腕を発揮し、“古典”と呼ばれる作品となるに違いない。
(yamamoto)

☆『運命じゃない人』はユーロスペースほかにて絶賛公開中!(全国順次公開予定)

□作品紹介
『運命じゃない人 』