カンヌ、サンダンスといった世界の映画祭で絶賛され、ガス・ヴァン・サント(『エレファント』)とジョン・キャメロン・ミッチェル(『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』)がプロデューサーを買って出た話題作『ターネーション』が、8月6日(土)公開初日を迎えた。それを記念して、『ハッシュ!』などを手掛けた橋口亮輔監督と、ドラッグクィーンのマーガレットさんをゲストに迎えたスペシャルトークショーが映画本編上映後に行われた。
 『ターネーション』は極度の精神分裂的症状の治療などに苦しむ母親と、激烈な家庭環境で育った息子ジョナサンの物語を描く。ジョナサン本人が出演、監督、編集を務め、“ドキュメンタリー映画の最新型”と世界中から絶賛された。橋口監督とマーガレットさんは個人的に仲が良く、お2人ともこの作品を気に入ったとのことでトークショーに登場。「正直見ていてつらい映画。でもいくつか大好きな点がある」(マーガレットさん)、「人生って痛いんだなー、でも美しいんだなーということを見ながら共感しました」(橋口監督)など、独自の視点によるトークが進められていった。
 
マーガレットさん:この手の作品は好き嫌いがはっきりするものだけど、私ももう1度見るのはもう2ヶ月くらい待って、かな(笑)。いくつかの点でとても好きな映画なんですが、橋口監督はどのように見ました?

橋口監督:日本人も外国人も自分にカメラを向けて、何かを表現するという意味じゃ同じなんだなーと思いました。自分で自分を撮ると、ウソをついたり作り込めたりできるんだけど、この作品は基本的に誠実に作っているなあと。そこにすごく好感が持てましたね。僕のゲイの映画ベスト3には入ってはこないんだけど、最初から僕は不思議な感じだった。自分自身の感覚が甦ってくるというか。うまく危ういところをすり抜けてまとめていますよね。今の日本映画は安い映画か、CG使ってるか、ホラーか、純愛か、軽いコメディみたいにジャンルが偏っていて。その中でこういった映画を若い人に見てもらえるっていうのが嬉しいですね。

マーガレットさん:この人が生きてきたことで何か表現したいというところが気持ちいいところかな。多分、すごくウソも入っていると思うけど、すごくしんどいことがあって、それを何とかつなぎとめて物語にしないとやってられない、というピュアな部分が垣間見れたところはは買いだと思うの。でもラスト当たり(お母さんの鼻の下を押さえたり)はウソ臭くて、この映画を当てたいって欲が出てるかな(笑)。あとこの映画のもう一つ好きな点は、家族、親は選べないけど、それを彼は30年たってまた選ぼうとしているのよね。そのための映画だと思うと、どこまでが本当とかあまり重要じゃなくて、一度吐き出さないといけなかった、そしてその吐き出し方が見事だったと思うの。そこが買いじゃないかなと。

橋口監督:彼が今後どうなるのかが気になる。多分ウソくさいところは、ガス・ヴァン・サントとかに「父親を探して来い」って絶対に言われたんだと思う(笑)。でも彼にはそれを受け入れて作品にするしたたかさがあるよね。それは嫌な面ではなくて、この人が今後どう自分に目を向けて、ハリウッドでどういうものを作っていくのか興味がありますね。

マーガレットさん:お母さん、恋人、おじいちゃん達と暮らす家が買いたいと言ってるらしく。でもその話を聞いて、この人、本物と思ったの。一度家族を捨てて、お母さんを選んだけど、その時、おじいちゃんを攻めないとだめだった。作品として帳尻があった。で、今お金がちょっと入ったら、罪滅ぼしとしてなのか今度はおじいさんを呼び寄せたい、と。こういうのって彼はもともとは素直なんだなと。素直なのはあつかましいということでもあるんだけど。あとテクニカルな部分でも、すでに持ってる素材、例えていうと冷蔵庫にある余りものをうまく使ってる感じ。そこもすごい才能だと思うのよね。
 あと、この作品はMacで作られたんだけど、コンピューターで作られてる今の作品って手軽なだけに無責任なものが多いじゃない。でもコンピューターでこれだけ真摯な作品っていうのも好感が持てたかな。私小説的な作品は自己満足になりがち。だけどこの作品は不幸比べになったりもしていないしね。

橋口監督:正直宣伝部から見てくださいといわれていたんですが、あまり気が乗らなかったんです。でも始まってすぐに不思議な感じにはまって。人生って痛いんだなー、でも美しいんだなーということを見ながら感じて、そこらへんで共感しました。

マーガレットさん:最近の若い人には珍しく、何か伏線を張っていたらちゃんとオチをつけてる。プラス、マイナスゼロというか。今の作品って伏線まくわまくわ、キャラクターをたくさん出すわで、何も刈り取らないし。

橋口監督:どんどん質が下がっているなあという気はしますね。

(yamamoto)

☆『ターネーション』は、渋谷シネ・アミューズにて上映中!

□作品紹介
『ターネーション』