本音で語り合う180分!「VFXとデジタルシネマ〜樋口真嗣監督×ピトフ監督〜」@SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2005
skipシティ国際Dシネマ映画祭2005関連イベントとして、7月20日(水)「VFXとデジタルシネマ〜樋口真嗣監督×ピトフ監督〜」が行われた。『ガメラ』シリーズで特撮監督として活躍してきた樋口真嗣監督は『ローレライ』が大ヒット、ただ今『日本沈没』を制作中。一方のピトフ監督は世界で初めてのデジタルシネマ長編『ヴィドック』を手掛け、『キャットウーマン』でハリウッド進出を果たしている。意外にも、VFXと深く関わることになったのは「事故のようなもの(笑)」と話す両監督。その他でも共通点が多い2人の話題は、現場での苦労話や映画界への提言など多方に広がり、約3時間に渡るイベントは濃厚な内容となった。
——VFXに取り組むことになったきっかけは?
ピトフ監督:「事故と言えますね。一番最初は監督になりたいと思っていました。VFXは後天的についてきたんです」
樋口監督:「私も事故のようなものですね。お世話になっていた方に大迷惑をかけてしまって、仕事を手伝わないといけなくなったことがきっかけです(笑)」
——『ヴィドック』『キャットウーマン』について
ピトフ監督:「『ヴィドック』は、当時のフランスを自分なりに肉づけしたりしています。この作品は世界初のデジタル映画なんですが、そもそもデジタルで撮ろうと思ったのは、普通のやり方を変えてみたかったというのと、HDの色、深みがいいなと。ソニーの方に会って、カメラを手に入れて、テストをして質を確かめました。そしたらイメージしたままの絵が撮れていたんです。ワイドアングル、ハイコントラスト、レトロなんだけど未来的な絵が。そして私は視覚効果をもともとやっていたので、自分の手ですべてをやりたいと思っていました。その夢もHDのおかげで叶いましたね。
『キャットウーマン』でハリウッドの仕事ができたのはいい経験になりました。ハリウッドはなかなか変な世界で、まず編集の仕方が違います。監督は雇われている立場で、必ずしも要望どおりにできないわけです。けれどもポスターには監督の名前が入ります。次は『ヴィドック』のように自分の思い通りに作れる、ハリウッド作よりももう少し小さな作品をやりたいなと思っています(笑)」
樋口監督:「編集は自分の色を出せるし、そのさじ加減でいかようにも変えられる。なのでハリウッドでの仕事は大変だったと思います。自分もいつも編集権は死守します。『ヴィドック』を観た感想は…正直くやしい(笑)。フランスの文化を大切にしつつ、色使いが素晴らしいビジュアルを撮っていてすごいです」
——『ローレライ』について
ピトフ監督:「リアリズムがすごいですね。あの女の子はどうなるんでしょう?(※ピトフ監督は字幕なしで『ローレライ』を鑑賞)。爆破シーンも濃いもので、楽しめました。実は私、『ガメラ』も見ているんですよ。いい映画は時代、技術の高さは関係ないですね」
樋口監督:「『ローレライ』は生身の人間相手ですので、想像していたより良かったり、いい意味でうまくいかないことがありました。VFXはフランスとかにはかないません。ハリウッドの次に色んな国が並んでいると思っていたんですが、『ロスト・チルドレン』を見て、フランスが頭ひとつリードだよ!と焦りました(笑)。ハリウッドではできない色使いがいいですよね。伝統的な絵画とかに影響されてるんでしょうか。安定感がありますよね」
ピトフ監督:「絵画と言うのはインスピレーションからどう形にするかであり、そういう意味で無限なものです。私のインスピレーションを受けるルーツにも絵画があります」
樋口監督:「あの、すごく個人的なことを聞きたいのですが…。CGでレイヤーを重ねる時、スタッフそれぞれにクセがあって、それが直しの作業でちょっと障害になったりすることもあるわけで…。それはどうスタッフに指示しています?」
ピトフ監督:「料理と一緒で、どのスタッフにもクセはあるものです(笑)」
樋口監督:「なるほど。じゃあどこも一緒なんだなー(笑)」
——2人にとってVFXとは?
ピトフ監督:「よく知っているVFXは私にとって簡単なこと。でもVFXは物語を語るための一つの方法にすぎません。新しい技術なので大きく注目されがちですが、VFXを物語の中に溶け込ますことが大事です。『他人のそら似』という作品でVFX使ってたの?って言われたことがありますが、それが一番嬉しいものです」
樋口監督:「え、あの作品でもVFX使ってるんですか!?驚きました。僕は、VFXは本当は使いたくないけど…。本物じゃなくてもいいや、とあきらめが早いのは強みかな。クオリティを上げるのは人間の芝居。予算の限度もあるし、VFXによってこれ以上絵はよくならないと思う。よりよくVFXを見せるために監督をやっていると考えた方がいいかもしれないですね」
——今後のVFXに期待することは?
樋口監督:「何でもできるけど、時間の短縮が必要。ちょっと直すだけでも1ヶ月かかったりしますし。あと、カメラを小さくして欲しいですね。『ローレライ』はとてもせまいセットでデジタルのカメラが入らなかったので、フィルムで撮影しました。画質をフィルムに近づけようと、デジタルは間違った方へいってるような気がする。フィルムっぽくなら、フィルムで撮った方がやっぱりいいんです。デジタルではフィルムでできないことを追求して欲しい。これは『ヴィドック』を見た時に思ったことでもあるんですが…」
ピトフ監督:「カメラは小さければ小さいほど嬉しいものです。より動きやすくなりますし。最終的にはカメラなしで撮影できたら最高ですね(笑)。光や影のことを気にしなくてもよくなれば。あとやはりCGで人間を作るのは大変。エモーションキャプチャーとかできればいいですね。今後、映画の在り方はどんどん変わっていくと思います。ショートフィルムとかインタラクティブで観客も関われるムービーとか。自分もその変わっていく未来に関わっていければと思います」
樋口監督:「そうですね。1人でも作れて、自由な撮り方をできるのがデジタル。ここ10年以内で作る人の可能性がすごく上がりました。プロでも作れないものを作れたり。若い目は摘まないとと思いながら(笑)、おもしろい時代になったなーと思います。例えば劇場版『電車男』はHDで撮っていて、TVドラマのユニットの手で2ヶ月で撮影してるんです。映画業界の常識だと「半年待って」となるけど、これだとブームに乗れず、ここまでヒットしなかったはず。映画畑の人間から見ると恐ろしい時代です。別のところで自分は頑張らないと、と思っています」
(yamamoto)
□関連作品
・『ヴィドック 』
・『キャットウーマン 』