南米コロンビアから、また新しい才能がひとつ発見された。サンダンス映画祭をはじめ、世界各地の映画祭で合計46部門にノミネートされ、24部門を受賞し、アカデミー賞主演女優賞には『ミリオンダラー・ベイビー』のヒラリー・スワンクとともにノミネートされるという快挙まで成し遂げたのは、本作が長編デビュー作となるジョシュア・マーストン監督の『そして、ひと粒のひかり』だ。
 17歳の少女マリアを主人公に、現在コロンビアで社会問題となっている、「ミュール」(麻薬を胃の中に飲み込んで密輸する運び屋)を彼女が決意する姿を通して、現代社会の闇、そして犯罪という悪を二元論で語ることの難しさなど、あまりにも多くの事柄を観客に示唆する内容となっている。

 7月27日に行われた記者会見には、ジョシュア・マーストン監督、主演のカタリーナ・サンディノ・モレノが揃って来日した。アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされその演技力に大きな期待と注目が集まっているカタリーナは、主人公マリアが麻薬が入ったカプセルを飲み込むシーンでは実際に彼女自身もカプセルを飲み込むという根性のすわった女優魂をみせたという。役作りについてこう語る。
「主人公のマリアと同じように、私も母の友人のバラ農園を経営で2週間ほど働かせてもらいました。マリアがなぜドラッグの密輸という危険な仕事を決意したのか、はじめは全くわからなかった。でも彼女と同じようにバラ農園で働いていくうちに、そこでの仕事はとてもつらく、しかも家族も誰も彼女の辛さをわかってくれないし支持してもらえない、そして自分を愛してくれるボーイフレンドもいない。そういうところからだんだんと彼女の気持ちがわかっていくようになりました。」
また、この映画を通してカタリ−ナ自身も大きな変化を迎えたという。
「コロンビアからニューヨークに移り住んだことで、いろいろ変わりました。ニューヨークは町自体もすごく活気があるし、色んな舞台や芝居をみて刺激をうけています。また、エージェントに所属したことで女優として仕事をしていく上での環境が整ってきました。」
と目を輝かせて語る。
 まったくの新人女優であった彼女とともに鮮烈な監督デビューを飾ったマーストン監督は、
「映画とは観客を楽しませ、そしてその物語を語ることだと思いますが、私は主人公マリアを通じてこの作品で一人の17歳の少女の人生を普遍的に語りかけたいと思いました。」と語り、撮影前には綿密なリサーチを繰り返したという。
「撮影の前に実際に密輸をしていて捕まった人たちを刑務所に訪ねて調査をしました。彼らの話を聞いたことで最も勉強になったのは、どうして彼らが自分の命を危険にさらしてまでそういう仕事を決意したのかということ。子供に食べ物を与えることができないことが、そういう状況を選んでしまうということは、決して良いことではないが、多くの人々にも理解してもらいたいことだと思います。」と作品のテーマについて強く訴えかけた。「この映画に描かれていることが決して特異なのではなく、今この瞬間にも麻薬を飲み込んで飛行機にのっている人々がいるということをわかってください。」と力強く語った。
「麻薬を政府は規制していますが、その結果麻薬の価格が高騰し、結果的にはマリアのような貧しい人々が自らの命を危険にさらして悪に使われることになっています。ただ犯罪者を捕まえればよいという考えは改めるべきだと思います。」と犯罪についての対応策として、また人々の中にある二元論的な考えを作品をとおして見直しを求めた。
(綿野)

☆『そして、ひと粒のひかり』は2005年秋、渋谷シネ・アミューズ他全国順次ロードショー!

■作品紹介
そして、ひと粒のひかり