「目標は知能指数の低い映画」古厩智之監督『さよならみどりちゃん』撮影現場レポート
さかのぼること一年前の8月、真夏の一番盛りの時期、うだるような暑さのなか『さよならみどりちゃん』の撮影は行われていた。恋愛における女の子のリアルな感情のゆらめきを淡々と描き多くの読者の支持をもつ人気漫画家・南Q太の同名漫画を原作に、好きな男に頼まれてスナックでついバイトをしてしまう女の子の切ないラブストーリーが描かれる。セックスは何度もしているが決して恋人にはなってくれない西島秀俊演じる超ナンパ男・ユタカと、それを承知していながらどうしても彼が好きでたまらない主人公ユウコを星野真里が繊細に演じる。
ユウコが勤めるスナック「有楽」でのシーン終了後、監督&キャストの面々に作品についてきいてみた。
−−− 漫画が原作ですが、どんな作品になりそうですか?
古厩監督「南Q太さんの作品はテレビドラマで2本やったことがあるんです。それを入れれば今回で3回目になるんですが、すごく現実的な話ですよね。女の子の友達でも、私はもっと夢をみたいからだめだな、って人もいるんですよ。でもものすごく好きって人もいるし評価が人によって全然分かれる作品だと思うんです。それは、現実そのものの話だから。僕は、女の子じゃないので「わかるわかる!」って感じでもないんですが、登場人物を愛せるように作りたいと思います。主人公にしろ、主人公が好きな男にしろ、たしかにこういう奴いるよって思えるように作りたいですね。それには僕だけじゃなく役者さんの力も大きいと思うんですが、星野真里ちゃんと西島さんにキャストが決まった時点で、俺の仕事はそんなにないかななんて思ってます(笑)。西島さんは、原作よりは大分違ってもっと若いんだけど、おっさんになってよりダメ度があがって良くなったと思います。
−−− セリフも雰囲気も漫画に忠実ですよね。その中にもどこかでご自分の色を出すとしたらどういうところだと思いますか?
古厩監督「俺らしさって自分でもまだよくわからないんですよ。でも、自分が楽しい、面白がって作れれば自然と自分らしさが出るかなと思っています。」
−−− 星野真里さんの起用について
古厩監督「第一印象はすごく真面目な子だと思いました。水商売の女の子の話なんですけど、好きな男に頭をコチンとされて「水商売やってみない?」といわれてつい始めてしまう、ちょっとばかな女の子で、今回の課題はみんなちょっと偏差値低めな芝居なんです。真里ちゃんみたいに真面目でスクエアな役が似合う子にちょっと抜けた子を演じるのが面白いと思ったんです。たまに苦しそうな顔をしたりすると快感が走ることもありますね。」
−−− これまで真面目な印象の役が多かった西島さんが超軟派なユタカを演じられていますが、彼の起用のきっかけは?
古厩監督「すごい大好きな役者さんで、以前も少しだけご一緒させていただいたことがあったんですが、長編作品で1度お仕事したいなと思っていたんです。まず、第一に無理しないところ。西島さんがやった時点で西島さんのユタカが見えてきましたね。書いてあるセリフを読むだけでユタカになっちゃうんですよね。クールで物静かな役をやっている印象が強いので、衣装も最初どんなものを着てもらうのかわからなかった(笑)。最初は迷いました。むずかしかったです。でも西島さんの方から「これでいいんじゃない」と言っていただいて安心しました。」
−−− 原作ではけっこうベットシーンが多いんですけど
古厩監督「そうですね。いっぱいあるんですよ。俺、そういえばそんなに性描写ってしたことなくて苦労はしています。でもそういうシーンを撮っているとやっぱキレイに撮りたくなってくるんですよ。それは自分にとって新発見でした。どう撮ろうかとか寝ないで考えてくるんですけど、現場に入るとやっぱり全然ちがってきちゃうんですよね。だからあんまり考えても仕方がないなと思いました。」
−−− 原作を読んだときどう思いましたか?
古厩監督「正直、「困ったな」と思いました。僕は女の子じゃなので本当のことはわからないんです。ただ、こういう女の子もいるということは理解できるし、わからないからこそやってみたいと思ったんですよね。」
−−− 脚本を読んだときの感想は?
星野真里「私も、正直「わからない」と思いました(笑)。自分の性格や今までの恋愛の形とは異なるものだったので、「なぜここでこう言わないんだろう」とか「なぜここでこうするの?」と感じることも多かったです。でもそれを監督に話していくうちに、自分とまったく違うのでそれを想像していく楽しみもありました。」
西島秀俊「原作も読ませていただいたんですが、完成度がすごく高いし、僕の演じた役も原作では僕よりずっと若いので、どうなるのかなと思いました。でも古厩監督とは是非ご一緒したかったので、お会いしたときに、「西島のフィルモグラフィーの中で最も知能指数が低い役をやらせたいんだ。」と言われて、やってみたいなと思いました(笑)。古厩監督に演出されれば、そういう役でもどこか面白いものになるんじゃないかと思いました。」
岩佐真悠子「みなさん「わからない」とおっしゃっていますが、私は「あぁ!」って思いましたよ。普段だったら言えるようなことでも好きになっちゃったら言えなくなることもあったりして、そういう女の子の気持ちに「うぅん!」って納得することもありますよ。私は基本的に言いたいことをいえなかったり、ウダウダするようなことってないんですけど、なんとなく気持ちは理解できますよ。「なんでこんな男を好きなんだろう」って思いますけどね。」
松尾敏伸「僕もちょこっとは彼らの行動や気持ちはわかりますよ。脚本読んで、泣ける映画になるなと思いました。ずっと泣いてました。ずっと…。」
−−− 現場の雰囲気は?
星野「監督がこのような方なので、現場の雰囲気もよく、共演のみなさんもいい感じに力が抜けていてリラックスして順調に撮影は進んでいます。」
西島「共演者のみなさんが、いい意味で緊張感のないメンバーなので現場でどんどんアドリブが出てきたり、古厩監督も現場で動きを変えてきたりするので、そういう撮影現場での生っぽい雰囲気が積み重なって作品になっていると思います。」
岩佐「緊張感がないっていうか、自分の空気をもっている方が多いと思いました。(共演者を指差して)いち、に、さん、よん!みなさんマイペースなので、私も自分の居場所を作らなくてもなんとなくどこにいても心地がいいですね。」
松尾「現場でこの八頭身の古厩監督がムードメーカーになって下さっていて、それに西島さんが乗ったりしてくれています。あと岩佐さんがすごくおテンバで、かわいらしい子なので現場を和ませてくれています。」
−−− ユウコを演じるにあたっての抱負は?
星野「原作を読んでしまったのでどうしてもそのイメージが強くて、いろんな意味でわからなくなってしまったこともあったんですが、一回全部そういうのを頭の中から取り払って、あとは台本と監督のいうことに従って、なるべく力を抜いて、頭を回転させないようにしました。漫画のイメージと実際に人間が動いて演じているのでは違ってくるかとおもいますが、現場での雰囲気と漫画のイメージは共通するものがあるので原作が好きで読んでいた方にも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。」
(綿野)
★『さよならみどりちゃん』は2005年8月27日、新宿トーアにてロードショー公開
■作品紹介
『さよなら みどりちゃん 』