江戸川乱歩の原作を4人の監督が4つの作品でそれぞれに表現するオムニバス『乱歩地獄』の完成披露試写会が7月5日行われた。舞台挨拶には竹内スグル監督、佐藤寿保監督、カネコアツシ監督、成宮寛貴、浅野忠信、松田龍平が登壇した。
 乱歩の処女作であるといわれ、血色への憧憬、身体変容などのちの作風を示唆する要素が集約されているアバンギャルドな原作である『火星の運河』を監督した竹内は、なんとアイルランドへ赴いての撮影を敢行。「5回くらい途中で止めようと思いましたけど、なんと完成できてよかったです(笑)。アイスランドまでわざわざ行っての撮影はとにかく寒くて、そんななか、浅野くんは本当によくやってくれたと思います。むこうは年中白夜なので撮影はし放題でした(笑)。」と語る。そんな極寒のなか、全裸で咆哮する芝居をみせた浅野の役者根性はさすが。今回のオムニバス4作品すべてに出演する唯一の人物であり、名探偵・明智小五郎を演じているのもみどころだ。
「江戸川乱歩の作品は読んだことがなくて、明智小五郎も全然知りませんでした。ただ4人の監督が4つの作品で乱歩の世界を作り上げるときいて、ただ面白そうだったので引き受けてしまいました。実際やってみたらすごく大変で、自分の根性のなさにびっくりした位(笑)。」といたって謙虚。
 名匠・実相寺昭雄監督のもと、鏡に偏執する男のモチーフを描いた『鏡地獄』の主演をつとめた成宮寛貴は、「乱歩の世界観がとてもよく出ていると思います。今までの仕事とはやり方も、スタッフも、セットもまったく違っていましたし、浅野さんと初めて共演できたことも嬉しかったです。これからの僕の役者生活の中でなくてはならない経験になったと思います。主人公のストイックさとナルシズムさがだんだんとリンクしていくような、歪んでいる人物像をつくるのを心がけて演じました。」といささか顔を紅潮させながら熱く語る。
 戦争で手足を失った傷痍軍人とその妻の倒錯した生活を描く『芋虫』で、原作にはない平井太郎(乱歩の本名)のようで怪人二十面相のようでもある役柄を演じた松田龍平は、「4作品ともほっと息をつくところがないくらい濃くて、観ている人はちょっと大変かも(笑)。撮影では、はじめ想像していたセットとまったく違ってコンクリートのうちっぱなしの場所での撮影だったので、意表をつかれて面白かったです。」とコメント。
 監督の佐藤寿保は、「小学生からの憧れであるこの原作を映画にできるということですごく力が入りました。自分がこの作品を読んだときのときめきを表現したいと思いました。脳髄を刺激するような作品になっていればいいと思います。」と興奮ぎみに語る。
 恋する女性を殺害し崩れゆくその亡骸とともに幻想の世界へと旅立ってゆく男の姿を描いた『蟲』は、漫画家のカネコアツシの記念すべき初監督作品となった。「初めての監督でしたし、まず映像の現場自体が自分にとっては初めてでした。現場で監督って何やればいいんだろう?なんて考えてしまったりもしましたが、浅野さんが「好き勝手やってくれればいいんですよ!」とおっしゃってくれて、それでふっきれたところもありました。すごく面白かったです!」と語った。
 4作品とも、それぞれ淫靡でグロテスクで濃厚な乱歩世界をうまく料理し、それぞれの味を出すことに成功しているこの『乱歩地獄』。個人的には妄執にとらわれた主人公を演じる浅野忠信がブリーフ一丁で商店街を徘徊するコミカルな姿もみれてしまうカネコ監督の『蟲』がオススメ。主人公の頭の中にある楽園をトロピカルな原色で描いてみせたのは、乱歩を映像化したものでは初めてかも。
公開は今秋、シネセゾン渋谷にてロードショー!
(綿野)
 
□作品紹介
『乱歩地獄 』