世界を震撼させた問題作「ヒトラー〜最期の12日間〜」記者会見
6月3日、キャピトル東急ホテルにて、戦後最大のタブーに挑んだとされ、
世界中で賛否両論巻き起こしたドイツ映画「ヒトラー〜最期の12日間〜」の記者会見が行われた。前作「es」でヒットをはなったオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督とヒトラーを演じたドイツの国民的俳優ブルーノ・ガンツがこの度来日、会見に臨んだ。
アドルフ・ヒトラー最後の女性秘書であったトラウドゥル・ユンゲの回想録「最後の時間まで:ヒトラー最後の秘書」にヒントを得て、ヒトラー最期の12日間を秘書ユンゲの目を通して描かれていく。ドイツ語を使い、ドイツ人俳優とドイツ人監督で製作された本作品は、公開されるやいなや、今まで明かされることのなかった衝撃の事実に全世界が驚愕した。戦後60年目を迎えた今年、この作品は、人類が過去に犯した大きな過ちについて改めて見つめ直すきっかけを与えてくれる。
Q.監督の前作「es」と今作の両方で、人の心の弱い部分、醜い部分を描いているが、それは監督の得意分野なのか?
監督「そういうわけではない。その二作がたまたまそうであったというだけだ。自分の役割は良きストーリーテラー(語り部)に徹することだと思っている。題材がコメディであれ、ラブストーリーであれ、その点は変わらない」
本作を拝見して、二度とこのような過ちは繰り返さないという決意が感じられた。
Q.この作品をつくるに至った経緯、思いなどを聞かせて欲しい。
ブルーノ「プロデューサーに、なぜこの作品を今このタイミングで作るのか?と聞いた所、今まで誰も挑戦しなかったことであり、単純に今やりたいとのことだった。その思いに共鳴し、今作への出演を決めました」
監督「今回作品を作るうえで気をつけたのは、ヒトラーを立体的に描くことであったが、ブルーノを得たことでそれが成功した。観客にシンパシーを感じて欲しかったわけではないが、劇中の人々も我々と同じ人間であり、人間性を丁寧に描きたかった」
Q.最近のドイツ国内におけるネオナチの台頭について
監督「ネオナチと名乗る大半の人間は本当のネオナチではなく、あくまで反体制のステートメントとして名乗ってる場合が多いので、それほど心配はしていない。今作品上映においても特に衝突は起こらなかった。むしろ、近隣諸国、フランス、イタリアなどにおける右翼団体、右翼政党の昨今の動きのほうが気にかかる」
Q.ヒトラー役を演じる上での役作りは?
ブルーノ「ヒトラーに関する文献をたくさん読んだのだが、彼の個性、たとえばエネルギッシュである点などの幾つかの特徴は把握できたものの、やはりなぜあのような悲劇を引き起こすにまでいたったかは結局わからなかった。彼は人に対する慈しみが欠落しており、その心は空虚に満ちていた。
そして、人の心に潜む恐怖心(当時であれば貧困や共産主義)を利用するのに非常に長けていた」
Q.ヒトラー自身はワーグナーの音楽を愛してやまなかったが、劇中ワーグナーの音楽を使用しなかったのはなぜか?又、監督のお気に入りの音楽家は?
監督「偉大な音楽家であるワーグナーとヒトラーを関連付けて観客に印象付けるようなことはしたくなかった。私個人はバッハの大ファンです(笑い)」
Q.ヒトラーという人物は過去の作品でも何度も演じられているが、印象に残る作品は?
監督・ブルーノともに「チャプリンの「独裁者」」
一つ一つの質問に真摯に答える御二人の印象は非常にチャーミングかつ暖かく、時折笑いが起こる和やかな記者会見であった。ヒトラー演じたブルーノ・ガンツ氏は劇中の本人と同一人物とは思えないほど、温和で気さくな方であり、と同時にドイツを代表する俳優としての風格を感じさせられた。
(葉山君恵)
★2005年今夏、シネマライズ他全国順次ロードショー
■作品紹介
『ヒトラー 〜最期の12日間〜 』